「香港大規模デモの行方」
―台湾への『1国2制度』はあり得ない―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 香港での暴動は、当局がマスクを禁止したから拡大したというようなものではない。当局の姿勢が変わらないとみた国民が、本物の「1国2制度」を確立して貰いたいとの一点で結集しているのである。
 香港はかつて150年にわたってイギリスの植民地だった。1842年のアヘン戦争後にイギリス領となったが、清朝時代に99年間租借する旨の約束をした。99は中国語の久久に通じ、英、仏、独、日本などは事実上の割譲と受け取っていた。しかし共産中国となって各国とも植民地を返還した。英国は1984年、鄧小平との間で「1997年7月に香港を返還する。中国は50年間は社会主義に基づいた政治は行わず、『一国両制度』の下で統治する旨を約束した。ところが香港の政治体制は中国が統治し出してから、行政府長官は中国側が握る。公民会(議会)の議員も〝反体制派〟は立候補できないなど、普通の民主国家ではあり得ない姿に変化した。そこに5年前から〝雨傘運動〟なる民主化を要求する反体制運動が生まれたが、当局から一発で叩き潰された。中国は香港住民の意志を見くびっていたようだ。当局は今回「犯罪容疑者を中国本土に引き渡す」旨の条例を立法化する意志を示した。これに反発した住民は6月9日に100万人、16日に200万人という大デモで応酬した。5年の間に住民は中国本土の意志を十分に推察し、事態の本質を見極めていたのだろう。
 中国は「2025」「2049」という2つのスローガンを揚げている。前者は2025年までに科学技術の面で世界の一流になること。後者は2049年の建国100周年に軍事的に世界のトップになることである。この方針が揺らぐことのないよう主旨を憲法に盛り込み、習近平氏の任期の期限を外して独裁をも可能にしたのである。
 この新憲法制度に先立って世界各地にばらまかれた評論家、ジャーナリスト、学者は本国に召還され、思想調査が行われた。日本にも半年後に帰ってきた学者がいるが、言論にタガがはめられたとみられている。
 中国の意向に沿うように韓国の文在寅大統領は国民の反日感情をあおって米韓同盟を弱体化している。
 中国の軍事的巨大化に気付いたのはトランプ大統領だ。中国が欲しかったのはカネと軍事技術である。米国が世界に開いていた学問の自由、通商の自由は実は共産主義国にとって、もっけの幸いだった。この自由を利用して中国は先端技術を盗み取り、金を稼ぎまくって強大な軍事力を築いた。いま米国は先端技術の分野から、中国人を軒並み追い出し始めているが、盗まれた技術は取り戻せない。
 香港の共産主義化は時間の問題だろう。次に来るのが台湾の占領だ。台湾にも「1国2制度」と同じことを言っているが、台湾の戦略的重要性は香港とは比べ物にならない。インド・太平洋構想が重要なゆえんだ。
(令和元年10月9日付静岡新聞『論壇』より転載)