澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -420-
台湾総統選挙と立法委員選挙結果分析

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 2020年1月11 日(土)、台湾では総統選挙と立法委員選挙が同時に行われ、即日開票された。選挙権を持つ人数は過去最高の約1,931万人で、投票率はおよそ74.9%と前回の投票率、約66.3%よりも大幅に上昇した。
 結果は、選挙前の予想通り、民進党の蔡英文・頼清徳ペアが史上最高の817万票余りを獲得し、国民党の韓国瑜・張善政ペア(約552.2万票)と親民党の宋楚瑜・余湘ペア(約60.8万票)を退けた。この得票数は、2008年の総統選挙時、馬英九候補が獲得した765.9万票を50万票以上も上回った。
 さて、この結果は、香港の「反送中」運動のお陰だと言っても過言ではない。台湾有権者は、中国共産党が(本来「1国2制度」下にあるべき)香港の「民主化」に対し武力鎮圧している状況を、昨年後半から見て来た。そのため、共産党と距離の近い国民党が敬遠され、同党と距離の遠い民進党でまとまろうとしたのである。
 また、習近平政権が台湾を「1国2制度」での「中台統一」を求めている事に、台湾島民がノーを突き付けた。
 おそらく「民主化」を求める大半の香港人もこの総統選挙での民進党大勝を喜んでいるに違いない。
 一方、立法委員選挙は、選挙前、民進党の単独過半数割れが危ぶまれていた。実際、総統選挙と立法委員選挙は選挙の質が異なる。前者は、いわば「理念の選挙」だが、後者は、有権者の「実利優先型選挙」である。
 しかし、総統選での蔡総統の大勝を受けて、同党が単独過半数(57議席)の61議席(前回比7議席減少)を獲得している。
 民進党の陳水扁総統時代(2000年~2008年)、行政府と立法府間の“ねじれ現象”が続いた。だが、今回、民進党議員が過半数を維持したので、危惧された“ねじれ現象”は生じなかったのである。
 国民党は、38議席獲得(前回比3議席増)し、第一野党の面目を保った。比例区では民進党と国民党の得票率は共に33%台だった。そのため、両党は13議席ずつ獲得している。国民党はこの部分で“健闘”した。
 けれども、早速、国民党内では、大敗の責任を問う声が出た。そこで、呉敦義国民党主席と郝龍斌党副主席がそろって辞任している。
 柯文哲台北市長率いる新政党、「台湾民衆党」は比例区で11.2%の票数を取り、5議席獲得した。また、民進党に近い時代力量(徐永明中央党部主席)が比例区で7.8%を得票し、3議席獲得している(前回比2議席減少)。
 親民党の宋楚瑜はせっかく総統選に出馬したが、比例区の関門である5%を超える事ができず(3.7%)、議席をすべて失った(5%を突破できない政党票はすべて没収され、5%以上を獲得した政党に振り分けられる)。2000年頃、隆盛を誇った宋楚瑜の政治的影響力は完全に衰えた。
 また、昨2019年8月、陳水扁元総統は、「一辺一国行動党」を立ち上げた。しかし、陳元総統は、今度の立法委員選挙で5%の関門を突破できなかった(1.0%)。そのため、政界からの引退を示唆している。
 他方、昨年同月、時代力量は、柯文哲台北市長の総統選出馬をめぐり、柯市長を支持した。そこで、元ソニック (閃霊楽団)の林昶佐(Freddy Lim)は時代力量を離党した。林は、蔡英文支持を掲げ、選挙区(台北市第5区)に無所属で出馬し、国民党の有力候補、林郁方を破って当選している。
 また、2016年5月に設立された新政党、「台湾基進」(陳奕齊主席で「台湾独立」を支持)のダークホース、陳柏惟が選挙区(台中第2区)で当選し、1議席獲得した。
 実は、昨2019年12月31日、台湾の立法院では「反浸透法」を可決した。この法律は、中国共産党による台湾の選挙干渉を阻止する目的で作られている。どうやら、この法律も蔡総統の再選を後押しした観がある。
 今回の総統選挙で、頼清徳が副総統となった。4年後、頼が総統候補となるだろう。すると、民進党の長期政権となる可能性が出てきた。
 ところで、選挙当日深夜、中国で国務院台湾事務弁公室は、いかなる形式の「台湾独立」分裂活動にも断固反対するとの談話を発表した。台湾が“実質的”に「独立」している。それにもかかわらず、中国共産党は依然「台湾独立」を許さないと主張する。面妖ではないか。
 また、蔡英文総統が圧勝した翌12日、中国国営新華社は総統側が不正行為等の「汚い小細工」をしたと批判している。
 更に、同日、耿爽中国外務省副報道局長は、蔡総統再選に対し日米英が祝意を示した事に関して「『一つの中国』原則に反するやり方で、強烈な不満と断固とした反対を表明する」とコメントを出した。
 願わくは、中国大陸でも、台湾と同じように、あらゆる首長や議員を民主的選挙で選んで欲しいものである。