澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -425-
1週間で約2千の遺体が焼却された武漢市

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 よく知られているように、一般に、中国当局が発表する数字はあまり信用できない。しかし、子細にそれらを観察していると、当局は様々なヒントを与えてくれる。
 現在、「新型コロナウイルス」(以下、「武漢肺炎」)は武漢市を中心に流行している。中国当局は、死者数を361人(2020年2月3日12時現在)としているが、果たして本当だろうか。
 実際は、今年1月25日から2月1日の1週間に、武漢市だけで約2,000人~3,000人が亡くなったと考えられる。
 その理由は以下の通りである。
 武漢市には7つの葬祭場が存在する。その中で漢口葬祭場が1番大きい。年間、1万2,000人を荼毘に付している。この人数は、同市全体の斎場(年間4万4,400人)の約27%に相当する。
 漢口葬祭場には14台の焼却炉が稼働している。普通、1台の焼却炉で、1遺体焼却に1.5時間から3時間を要する。1日24時間、絶え間なく焼却すると、最低8人を荼毘に付す事ができるだろう。
 武漢市当局は、1月25日午前10時から焼却炉を24時間フル稼働する事を宣言した(同時に、同市は「武漢肺炎」で死亡した人の遺体焼却を無料としている)。
 もし、漢口葬祭場が14台の焼却炉をフル活動させると、1日、最低112の遺体を焼却できる。1週間では、784遺体の処理が可能である。
 ただし、全部の人が「武漢肺炎」で死亡したとは限らない。例えば、他の病気で亡くなった方や事故で亡くなった方もいるだろう。あるいは、老衰で天寿を全うされた方がいるかもしれない。
 上述の通り、漢口葬祭場は、年間1万2,000の遺体を処理してきた。同斎場が年中無休(365日)だとすれば、1日当たり約32.9遺体となる。もし、週1回の休みがあると考えれば、年間313日の営業日なので、約38.3遺体となるだろう。
 つまり、毎日約38.3の遺体は、普段通り(「武漢肺炎」以外で)に死んだと見なしてもよい。すると、同斎場に運び込まれた、1日平均約73.7遺体が「武漢肺炎」が原因で亡くなったと考えられよう。
 漢口葬祭場では、1週間で最低約515.9遺体(「武漢肺炎」による)が焼却された。だが、既述の如く、同斎場は、全体の27%である。仮に、他の6葬祭場も同様に、焼却炉を1日24時間フル稼働させたとしよう。
 すると、武漢市全体では、約1,910.7遺体が処理された事になる。実際、葬祭場で焼却が間に合わず、その周辺に放置されている遺体も散見される。
 したがって、およそ武漢市では、1週間で最も少なく見積もっても、約2千人近くが死亡し、荼毘に付せられたと考えられよう。
 実は、別の資料では、武漢市全体で、年6万遺体処理しているという数字もある。
 漢口葬祭場は年2万遺体を処理している(武漢市全体の3分の1に相当)。そして、同斎場が14台稼働し、年300日営業しているという。
 ならば、漢口葬祭場は普段1日当たり約66.7遺体焼却しているはずである(焼却炉が1日1台につき約4.76遺体焼却という計算になる)。
 なお、この資料では、1遺体の焼却時間は1.5時間としている(また、その半分の時間でも焼却可能だと指摘している)。すると、焼却炉1台当たり1日16遺体焼却が可能となるだろう。
 したがって、同斎場は、14台の焼却炉があるので、1日224遺体焼却できる。
 だが、普段は、1日約66.7遺体処理しか行っていないので、現在、1日約157.3遺体が「武漢肺炎」で死亡したと推定できよう。ならば、同斎場では、7日間で約1,101.1遺体を焼却した計算になる。
 前述のように、漢口葬祭場は武漢市全体の3分の1の遺体処理を行っている。仮に、他の葬祭場も1日中フル稼働としていたるならば、同市全体では同期間中、約3,303.3遺体焼却されたと推定できよう。
 これら以上の数字は、あくまでも武漢市1週間だけのモノである。昨2019年12月中、及び1月1日から24日の数字は全く含まれていない。ましてや、武漢市以外の湖北省、あるいは、中国全土の死者数(あるいは遺体焼却数)はまったく不明である。
 さて、今度の「武漢肺炎」の蔓延は、中央政府の責任が大きい。初動対応を誤ったからである。なぜ、情報をすぐ開示しなかったのだろうか。1月27日、周先旺武漢市長がテレビで暗に示唆したように、中央政府が「武漢肺炎」の隠蔽するように指示したのではないか。 
 今更、北京が慌てて武漢市内に「火神山病院」や「雷神山病院」という名の“病院もどき”を突貫工事で建設しても、もはや「武漢肺炎」の拡大を止める事は難しい。また、湖北省(特に武漢市)の感染者を救命できるのかと言えば、医療関係者が武漢市に現地入りできない(あるいは、したがらない)ので、疑問符が付く。
 現在、中央政府は習近平主席の1人独裁制となっている。すべての責任は習主席に帰せられるだろう。