澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -427-
「武漢肺炎」で80余りの都市が“封鎖”された中国

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2020年)2月10日、北京市と上海市が相次いで市内の道路を“封鎖”した。「武漢肺炎」から市を防御するためである。これで天津市と重慶市と併せて、4直轄市が全部“封鎖”された。中国では、感染源の武漢市を含め、80余りの都市がすでに“封鎖”されている。明らかに緊急事態である。
 市民は、市内の移動も制限されている。スーパー等での買物もままならない。もし“封鎖”を強行突破すれば、警察に殺害されるだろう。
 今年の春節は1月25日から同30日(24日を含め7日間の休日)までだった。ところが、「武漢肺炎」が流行したため、春節が2月9日まで延長されている。
 本来、2月10日が仕事始めとなる予定だった。だが、交通機関が動いていても、乗客はまばらである。一部の企業は在宅で仕事を始めたという。だが、多くの企業は、依然、稼働していない。「武漢肺炎」による中国経済へのダメージは、日本の比ではないだろう。中国の中小企業は、あと半年も、もたないかもしれない。
 さて、我が国では、「武漢肺炎」に関して、識者が毎日テレビで解説を行っている。だが、一部の識者は、中国の実態をあまり把握していないためか、「武漢肺炎」をインフルエンザと同じレベルかその延長線上で捉えているふしがある。
 普通に考えれば分かる事だが、ある国でインフルエンザが流行したからと言って、政府が人の移動を制限したり、市内を“封鎖”したりするだろうか。
 目下、米国では、(2019年~20年)インフルエンザが流行している。すでに1900万人が感染し、1万人が死んだという。だからと言って、トランプ政権は、どこかの都市を“封鎖”しただろうか。あるいは、米国人の移動を制限しているだろうか。
 現在、中国で蔓延している「武漢肺炎」は、インフルエンザとは異なる別次元のウイルスと考えられよう。
 例えば、潜伏期間中(無症状で)、他人に感染するし、エアロゾル感染(飛沫感染と空気感染の中間)も疑われている。また、潜伏期間が最長24日(中国呼吸器疾患の権威、鐘南山)と非常に長い。その上、一度その肺炎が治っても、再びかかる心配があるという。
 一般に、日本の常識を中国に当てはめても、ほとんど意味をなさない。日中では、医療・衛生環境、及び(PM2.5に代表される)大気汚染の状況がまるで違うからである。
 周知の通り、2月8日、武漢市で新型肺炎に罹患した日本人男性(60代)が死亡した。仮に、その男性が帰国していたら、助かったかもしれない。我が国の方が、中国と比べ、衛生・医療事情が断然良いからである。
 おそらく大半の武漢市民は、元々、大気汚染で肺に何らかの疾患を持っているのではないだろうか。だから、同市では新型肺炎への感染率が高いのではないか。また、衛生事情に問題があるので、「武漢肺炎」が蔓延した公算が大きい。更に、医療事情が良くないので、死者が増えたのかもしれない。
 ちなみに、1月18日、武漢武江岸区(百歩亭社区)では、毎年恒例の「万家宴」(1家庭から自慢の手料理1品を出す)が開催され、4万人余りも集まった。これも武漢市で新型肺炎蔓延の原因の1つとなったという。
 ところで、中国共産党は何を思ったのか、武漢市に突貫工事で、野戦病院のような施設をごく短期間で完成させた(その様子をネット配信)。けれども、武漢市の医療関係者は、長期間、ハードな仕事をこなし、疲労困憊している。
 他省市から武漢市へやって来る医療関係者もいるようだが、人員が決定的に不足している。これでは、病院は機能しない。ただ単に、患者を病床に寝かせておくだけだろう。一部の患者は死を待つだけかもしれない。
 習近平主席は、1月28日、テドロスWHO事務局長と会談後、2月5日、カンボジアのフン・セン首相と会うまで、1週間、姿を隠していた。その間、2月3日、習主席は、政治局常務委員会を開催して「武漢肺炎」に立ち向かうよう、檄を飛ばしている。また、同月10日、習主席は、北京市の住宅地や病院の「武漢肺炎」対策の現場視察を行った。同時に、地方幹部を更迭している。
 だが、「すでに時遅し」の感は否めない。昨年12月8日、中国共産党は新型肺炎発症を知った時点で、何か対策(検疫や隔離)を講じる必要があったのではないか。
 他方、同月30日、眼科医師、李文亮(今年2月6日深夜死亡)が武漢で蔓延した新型肺炎はSARSに類似していると警告した。その際、習近平政権は、李文亮を拘束して、李の警告をデマと決めつけたのである。
 遅くとも、この時点で、北京政府が彼の警告に耳を傾けていれば、湖北省をはじめ、全国でこれほどの惨状とはならなかっただろう。