澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -430-
「新型肺炎」の呼称とCDCの基準

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 周知の如く、1918年から翌年にかけて世界中でインフルエンザが大流行した。スペイン風邪である。感染者は5億人、死者5,000万~1億人と言われる。流行したのは米国だが、感染情報の初出がスペインだったので、この名称が使用されている。 
 国立感染症研究所によれば、ウイルス性出血熱4疾患として、(1)クリミア・コンゴ熱(2)ラッサ熱(3)エボラ熱(4)マールブルグ熱があるという。(1)と(2)の名称は、地名から名付けられている。ラッサとは、ナイジェリア北東部ラッサ村を指す。他方、(3)と(4)は、ウイルスの種類から名称を取っている。つまり、地名から名称を取っても、ウイルスの種類から名称を取っても、何ら問題ないはずである。
 ところが、今年(2020年)2月12日、テドロスWHO事務局長は「武漢肺炎」という呼称では風評被害が生まれるとして「COVID-19」という覚えにくい名称をつけた。その後も、同事務局長は、一貫して中国を擁護し、「新型肺炎」に関して「パンデミック」という言葉を避け続けている。
 そのため、ネット上では「新型肺炎」拡大に関して「犯行は中国、共同正犯はWHO」だと決め付けられた。
 実は、中国共産党は「新型肺炎」の発生地を我が国や米国に擦りつけようと画策している。習近平政権は「日本新冠(新型冠状)肺炎」と言い出した。あたかも、日本から「新型肺炎」が発生したように見せかけている。
 他方、同党は、鐘南山医師を使って「新型肺炎」が流行したのは武漢市だが、ウイルスは中国の発生ではないかもしれないと匂わせている。ウイルスは別の国から入って来たと言う論法である。
 スペイン風邪と同様、元々、ウイルスは日本や米国で発生した。けれども、それが流行したのは、たまたま中国だったと言いたいのだろう。習近平政権の思惑が透けて見える。
 さて、世界的権威を持つアメリカ疾病予防管理センター(CDC)では、ウイルスの危険度を致死率から5段階に分けている。
 致死率0.1%未満が「レベル1」。同0.1%以上0.5%未満が「レベル2」。同0.5%以上1%未満が「レベル3」。同1%以上2%未満が「レベル4」。同2%以上が「レベル5」。
 「新型肺炎」は致死率が当初より2%~4%程度と言われた。したがって、CDCの基準で言えば、最高の「レベル5」である。それにもかかわらず、日本における大半の感染症専門家らは、未知のウイルスに対し、季節性インフルエンザと同じ位の感染力か、それよりも多少強い程度と楽観的なコメントをしていた(一説にはSARS感染力の100~1,000倍だとも言われる)。
 彼らは武漢市や湖北省等の悲惨な状況を分かっていなかったのである。また、習近平政権が「首都防衛」戦争を行っている事実も知らなかったに違いない。
 同時に、大半の感染症専門家らは、中国当局の発表する感染者数や死者数を頭から信じ切っていた。周知の如く、中国共産党はしばしば統計のやり方を変えたり、数字を加工して“人工的な数字”を公表する。彼らは、中国政府にすっかり騙されてしまった観がある。
 感染症専門家らは、おそらく初期段階で安倍政権に対し「新型肺炎」は恐れるに足らずとアドバイスしたのだろう。そのため、同政権の初期対応が遅れたのではないか。したがって、専門家達の罪は決して軽くはないだろう。
 最近の『クーリエ・ジャポン』の記事によれば、リーマン・ショックを予見した元トレーダーのナシーム・ニコラス・タレブ(危機管理の専門家)は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、仏誌『ル・ポワン』の独占インタビューに答えた。そこで、彼は(致死率の高い)「疫病の毒性が非常に不確実なときはパニック」にすべきだと主張している。
 しかし、この期に及んでも、日本国内では、未だ人命よりも経済の方が大切だという人が少なくない。人は命さえあれば、たとえどんなに経済状況が悪くなっても何とか生きていける。だが、死んでしまえばすべて終わりである。
 2月26日、安倍首相が多数の観客が集まるスポーツ・文化イベントに関して、主催者に対し、今後2週間は中止や延期、規模縮小などの対応をとるように要請した。遅きに失した感も否めない。
 また翌27日、首相は、「新型肺炎」の感染拡大を防ぐため、全国の小中学校、高校、特別支援学校を3月2日から春休みまで臨時休校とするよう各自治体へ要請した。突然の事で、教育現場は混乱し、共稼ぎの親達は困惑している。
 政府による“場当たり的対応”という非難は決して免れない。だが、「新型肺炎」を防止するためには、何もしないよりもずっと良いのではないか。
 今後、安倍首相は、1日も早く、中国人等の入国拒否を決断すべきだろう。