澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -431-
中国を襲うサバクトビバッタの新たな脅威

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 すでに一部で報道されているように、現在、インドやパキスタンは、サバクトビバッタの脅威に晒されている。その数、およそ4,000億匹という。
 サバクトビバッタは、過去、たびたびアフリカ、中東、アジアに被害を与えて来た。このバッタは普通のバッタと比べて体が大きい。成虫のオスの体長は4~5センチメートル、メスの体長は5~6センチメートルである。寿命は3~6ヵ月、1年当たりの世代交代回数は2~5回と言われる。
 飛行スピードが速く、移動距離が長い。1日に約150キロメートルも行軍する。毎日、自分の体重分の約2グラムを食べるという。もし、現在の勢力を保てば、1日、最低でも約3.5万人の食料(約100万人の食料説もある)を食い荒らすと言われる。
 サバクトビバッタの一部は、すでに東アフリカへ侵入し、ケニア・エチオピア・ソマリア等に甚大な被害を与えた。他方、別の一部が、目下、東へ向かって進軍を続けている。縦60キロメートル、横40キロメートルにもおよぶ大軍団である。中国共産党にとって、この進軍こそが新たな脅威となってきた。
 今回、北京政府は、まさかサバクトビバッタが中国国内まで侵攻するとは予想していなかったのではないか。というのは、まず、中国とインド・パキスタンとの国境には自然の要塞、ヒマラヤ山脈がある。その上、チベット高原も控えているので、サバクトビバッタが中国を襲うとは想定外だっただろう。
 けれども、国連食糧農業機関(FAO)は、サバクトビバッタの行軍に対し、関係国に注意を喚起している。そして、FAOは、今年(2020年)6月までに、500倍まで増える(約200兆匹)と推計した。
 かつて、中国では、しばしば蝗害に遭ってきた。そこで、2月26日、中国国家林草局は、サバクトビバッタの侵入を防御するよう緊急通知を発令している。北京政府の危機感の表れである。
 そのバッタの侵入ルートは、3つあるという。
 (1)インド・パキスタンを経由しチベットに侵入するルート(2)ミャンマーから雲南省へ侵入するルート(3)カザフスタンから新疆ウイグル自治区に侵入するルートである。
 実は、2月下旬、中国共産党は、友好国パキスタンへ浙江省から10万羽の鴨軍団を送り込もうとした。鴨はバッタを取って食べる。この措置は、友好国を救うため、また自国を守るためである。
 ただ、現実問題として、沿海部の浙江省からだと中国大陸を横断してパキスタンまで行かねばならない。その距離は数千キロもあるし、また、チベット高原やヒマラヤ山脈を越える必要がある。中国政府が、鴨軍団をパキスタンまで空輸するのならばともかく、地上を行くのはまず不可能だろう。
 また、たとえ鴨軍団をパキスタンへ空輸したからと言って、果たして、鴨軍団が数千億のサバクトビバッタを退治できるとも思えない。逆に、鴨軍団はサバクトビバッタに逆襲される公算が大きい。
 結局、北京による鴨軍団派遣という発想はユニークだったが、「絵に描いた餅」に終わっている。
 ところで、2018年8月以降、習近平政権は「アフリカ豚コレラ」(ASF)に悩まされた。中国は、世界豚肉生産量の約半分を生産しているが、豚および豚肉の生産量が40%以上も減っている。そのためか、食料品全体の値段が高騰した。中国にとって経済的ブローとなっている。これが第1の天災である。
 次に、2019年12月、武漢市で「新型肺炎」が発症した。翌年1月から現在に至るまで「新型肺炎」は中国全土に拡大している。「新型ウイルス」の致死率はそれほど高くはないが、SARSと比べで感染力が強い。そのため、北京政府を悩まし続けている。
 習近平政権は、厳しく人の移動を禁じたので、経済活動は著しく制限された。そうでなくても、中国経済は停滞しているので、「新型肺炎」は景気悪化を招いている。これが第2の天災である。
 そこに、第3弾の天災であるサバクトビバッタが中国へ襲来したら、習政権はもたないだろう。
 よく知られているように、習近平主席は、まるで“中国共産党王朝”の皇帝(天子)のように振る舞っている。しかし、“徳を失った天子”は、天によって滅ぼされる運命(「易姓革命」)にあるではないだろうか。
 ちなみに、『聖書』「ヨハネの黙示録」第9章には、第5の御使い(天使)がラッパを吹くと、さそりの力を持ったイナゴ(イナゴはバッタの仲間。バッタはイナゴ科とバッタ科に分類される)が現れると書かれている。そして、そのイナゴはすぐには人間を殺さず、5ヵ月間、さそりにさされるような苦痛を与えるという。