澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -432-
「新型コロナウイルス」異聞

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2020年)3月5日、孫春蘭副首相が武漢市青山区を視察した際、開元小区の店主たちは「すべて嘘だ」と言って憤りをぶちまけた。同7日、その報復として、開元小区の出入り口が全て閉鎖され、住民らが建物の中に閉じ込められた。
 その3日後の10日、習近平主席が「武漢封鎖」後、初めて武漢入りした。翌11日付『人民日報』の中で、習主席は「新型コロナウイルス」(いわゆる「武漢肺炎」。以下、「新型コロナ」)に関して「昨今、流行の広がりの勢いは基本的に抑制されており、予防・管理状況は徐々に良くなっている」と楽観的な見解を示した。
 だが、同11日付『美国之音』によれば、武漢市交通運輸局職員が、同市では毎日新しい症例が増加しているので、「この状態では公共交通機関は復旧できず、その復旧時期は不透明だ」と述べている。
 やはり同日付『南方都市報』には、湖北省「仙鶴園公営墓地には約2万5,000基が造成され、現在1万基が開発されている。・・・公営墓地は必要に応じて開発事業を拡張することができる」と報じた。つまり、(武漢市を含む)湖北省では「新型コロナ」でおよそ1万人死亡した事を暗示していよう。
 さて、3月10日付『万維』の「クーデターの噂が広まり、習近平が危険にさらされている」という記事は興味深い。
 3月5日午後5時過ぎ、深圳・広州から北京・上海・南京・杭州など行きの航空機が、突然、相次いでキャンセルされた。そして、同日、天津市武清区で軍用機が(ロケット弾による攻撃?)で墜落している。軍幹部(かつて中国共産党軍事委員会副主席だった郭伯雄<無期懲役の刑に服す>の息子、郭正鋼)が軍用機で逃亡を謀った(「林彪事件」<毛沢東主席の後継者と目されていた林彪が、1971年に起こしたクーデター未遂事件>の再演?)のではないかと言われる。
 北京に近い湖北省石家荘市では、郭正鋼の指示で、習近平主席の警備員が主席刺殺未遂事件を起こしたという。また、やはり郭正鋼が東部戦区(浙江省杭州市莫干山羅心谷?)でクーデター未遂事件を起こしたと言われる。
 同記事では、現在、中国情勢が不安定な状況にあるという。また、共産党内の闘争は激しく、「習氏の状況は実に危険だ」とも指摘されている。したがって、今後、習主席は、今の地位にとどまれるのか疑問である。
 ところで、今年2月下旬、中国共産党は突然、『大国戦“疫”』という本を上梓した。まだ「新型コロナ」が収束していない時期に、同書がなぜ発行されたのか不思議である。おそらく、共産党内で、習近平主席を賛美しようとするグループ(その筆頭は王滬寧か)が出版に踏み切った公算が大きい。しかし、さすがに同書に対して風当たりが強く、3月1日、書店から本が撤去された。
 一方、中国共産党は「新型コロナ」を他国(日本や米国)へ責任転嫁しようと画策しているのではないか。中国語は、時として曖昧である。
 2月27日、駐日中国大使館が発表した在日中国人に対する警告の中に、「日本新型冠状病毒肺炎疫情不断变(変)化」という一文があった。
 ここは(1)日本における新型コロナウイルス肺炎の流行は絶えず変化している(2)日本新型コロナウイルス肺炎の流行は絶えず変化している、の両方の意味が考えられる。穿った見方をすれば、中国大使館は意図的に(2)とも取れる書き方をしたのではないだろうか。
 また、同27日、著名な鐘南山医師が、突如「新型コロナ」は中国発祥とは限らないと言明した。その反論のためか、ポンペイオ米国務長官は、3月5日と翌6日に行われた記者会見及びCNBCとのインタビューの中で、「新型コロナ」を敢えて「武漢コロナウイルス」と発言している。
 他方、中国共産党は、3月に入り「新型コロナ」について「世界は中国に感謝せよ」と言い始めた。だが、「新型コロナ」は武漢市で発生した事は間違いない。そこで、CCTVのキャスター、邱孟煌は、中国は世界にちゃんと謝罪すべきではないかと主張した。だが、邱は国内から激しい非難を浴びている。
 周知の如く、3月7日夜、中国福建省泉州市鯉城区のホテル「欣佳酒店」が、突然、崩壊した。同ホテルは、2017年に建設され、「新型コロナ」の隔離施設として利用されていたのである。
 宿泊していた71人が生き埋めになったが、多くが消防隊員によって救出された。だが、29人の死亡が確認されている。同ホテルは、自販機を設置するため、基礎部分を支える柱を除去したという。
 この一例でも分かる通り、中国共産党の「新型コロナ」への対応は実に心もとない。中国政府の公式見解とは違って、同国では、依然、予断を許さない状況が続いていると見るのが妥当ではないか。