澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -434-
中国携帯ユーザー激減と「宮廷クーデター」

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2020年)3月、「新型コロナウイルス」(いわゆる「武漢肺炎」、以下「新型コロナ」)の発祥地、武漢市では、一部封鎖が解かれ始めた。
 同市を含む湖北省では、新規の「新型コロナ」感染者がここ数日間出ていないという。そのため、習近平政権は、あたかも中国が「新型コロナ」を制圧したが如く世界に喧伝している。
 しかし、3月23日、『財新』では「依然として1日に数人から十数人の無症状の陽性患者が出ている」と中国疾病対策予防センター(中国CDC)の職員(匿名)が明らかにした。どうやら、湖北省では、まだ厳しい状況が続いていると考えられる。
 一方、習近平政権は、「首都防衛」の名の下に、北京市へ入って来るいかなる人も、14日間の隔離を義務付けている。習政権の危機感の表れではないか。
 今後、中国国内で「新型コロナ」危機が去った目安として(1)延期されている両会(全国人民代表大会と政治協商会議)が開催される(2)全国の小中高が全面的に再開される(3)封鎖された中朝国境が開かれる――等が挙げられよう。
 上記の目安が達成されていない場合には、依然、中国国内で「新型コロナ」が蔓延している証左となるだろう。
 実は、最近、中国では不思議な事が起きている。携帯電話を解約した人が、急増したという。
 (1)中国移動(チャイナモバイル)は、ユーザー数(9億4,216.1万人)を誇るが、1月と2月を併せて800万人もユーザーが減っている(合計-800万人)。
 (2)中国聯通(チャイナユニコム)は、1月と2月併せてユーザー数が780万人減少した(合計-780万人)。
 (3)中国電信(チャイナテレコム)は、1月、ユーザーが前月比43万人増えた。だが、2月、560万人も減少している(合計-517万人)。
 この2ヵ月で大手3社合計2,097万人のユーザーが減少したのである。なぜ、これほど多くの携帯所有者が契約を解約したのか。
 普通は、携帯所有者が(1)「新型コロナ」に感染し、長期間にわたる入院・隔離を余儀なくされた(2)「新型コロナ」のため収入が減り、携帯料金が払えなくなった(3)「新型コロナ」で死亡した(4)海外へ長期渡航(出張・旅行)した(5)罪を犯し入獄した――等である。
 無論、(3)のケースも十分あり得る。けれども、さすがに解約した2,097万人すべてが「新型コロナ」で死亡したとは考えにくい。
 だが、この10分の1(209万7,000人)の人間がそうだとしたら、恐ろしい話ではないか。100分の1(20万9,700人)でも驚きの数字である。
 さて、最近「紅二代」(「太子党」)の任志強(元不動産業)が、SNSで習近平主席を「裸になっても、皇帝を演じ続ける1人の道化師」と揶揄したのである。そのため、今年3月12日、任は当局に拘束されたという。
 2016年、任志強は習主席のプロパガンダ政策を非難するコメントをネットに投稿し、1年間の党観察処分を受けた過去があった。ちなみに、任は王岐山副主席と親しい間柄である。
 他方、「陽光衛視集団」(中国でも数少ない独立系メディア)主席、陳平が、WeChat(中国版Twitter)で、中国共産党に対し政治局拡大会議を開催するよう求めた。元々、陳平は任志強同様「太子党」であり、自由主義者と言われる。習近平主席に不満を持つ長老達を巻き込んで、主席を引き摺り下ろす算段ではないだろうか。
 そして、陳平は李克強首相(共青団)、汪洋政治局常務委員(同)、および王岐山副主席の3名を政治局拡大会議開催小組に指名している。これは一種の「宮廷クーデター」である。ただし、李首相や汪常務委員、それに王副主席らが、本当に政治局拡大会議開催を望んでいるかどうか、現時点では分からない。
 もし、この動きが本当に進んでいれば、「宮廷クーデター」が起こりつつあると言えよう。当然、習近平主席は「宮廷クーデター」を断固阻止しようと動いているに違いない。
 仮に、政治局拡大会議を開催できれば、おそらく「反習近平派」の勝利となるのではないか。習主席が一連の責任(「不況」・「米中貿易戦争」・「アフリカ豚コレラ」・「香港問題」・「新型コロナ」等)を取らされるのは必至である。その際には、習近平主席は主席から滑り落ち、李克強首相が主席となる公算が大きい。
 反対に、拡大会議が開かれなければ、「習近平派」の勝利となる。その場合には、「習近平派」による「反習近平派」への弾圧が起こるだろう。「習近平派」は「反腐敗運動」の名の下、「反習近平派」を政治的に葬るのではないか。
 目下、中国国内では、熾烈な党内闘争が展開されている。