ベトナムにおけるコロナウイルスの状況

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ベトナム外交学院南・東シナ海研究所長 グエン・フン・ソン

 1月23日、ベトナムで、武漢で感染したと思われるCOVID-19の最初の2症例を確認した。1ヵ月後、最初に感染した16人全員が回復し、入院先の病院を退院した。感染の第2波が出るまで、ベトナムにおける感染者は一時的にではあるが、報告されていない。感染の第2波は、3月6日以降、外国からの訪問者と帰国したベトナム人によるものだ。 2020年4月3日時点で、ベトナムには233の症例があり、世界で92番目に感染者の多い国となっている。人口比では、100万人あたり平均2人が感染している。75症例は回復している。3症例は危機的状況にあるが、まだ死亡例はない1。 ベトナム政府は、病気の蔓延を防ぐために、(1)流行地域の人々の旅行禁止、(2)既知および疑われる保菌者が感染を拡大するのを防ぐための検疫規則、(3)身元不明の保因者間の感染を防ぐための封鎖と社会的距離という3つの段階での対策を実施している。
 
コロナウイルス封じ込めのためのベトナムにおける3つの主要な対策レベル
 パンデミックが依然として中国に限定されていた1月の終わり、ベトナム政府はウイルス感染拡大に取り組むための一連の措置を開始した。グエン・スアン・プック首相はコロナウイルスに対する戦争を宣言した。一方、情報通信省は、市民の意識を高めるために大規模な情報キャンペーンを開始した。保健省は、コロナウイルス関連のニュースや健康のヒントを書いたテキストメッセージを毎日送信し、YouTubeで手洗いの歌を流し始めた。 当局は、買い物客に商品を備蓄せず、必要なものだけを取るよう継続的に求めている。
 第1段階、ベトナムは国境を封鎖し、入国する外国人を厳しく管理し始めた世界で最も早い国の1つである。2月1日、ベトナムは中国を発着するすべてのフライトを停止し、ハノイとホーチミン市の学校を閉鎖し、流行を封じ込めようとした。2月13日、ベトナムはハノイ北部のビンプック省の1万人の住人を21日間、強制的に隔離した。ベトナムは中国に続いて、強制隔離を行った最初の国である。
 海外からの訪問者からの流入とパンデミック地域から帰国したベトナム人の帰国者への対処を経て、ベトナムの対応は第2段階に入った。政府は空港で検疫方針を厳格にし、疑わしいすべての事例の完全な追跡を実施している。ベトナムはまた、保菌者の他者に対する接触を追跡し、接触が確認された保菌者は医療施設へ隔離し、厳格な移動と接触の制限を実施している。 3月25日まで、ベトナム政府は海外から到着する全ての人に強制的な14日間の検疫措置と、すべての外国便を欠航させている。流行抑制段階で、政府は戦時と同様の動員戦略を採り、兵士、医学生、引退した医師、看護師、社会組織を、ウイルスを封じ込めるために動員する。
 3月下旬に、毎日数千人が訪れる病院であるバックマイ病院での感染が確認された後、政府はすぐに第3段階に入り、コロナウイルス封じ込めの体制をさらに厳しくした。ハノイ人民委員会は、地域社会への感染を防ぐために社会的距離を取ることを命じた。国全体が不要不急の活動を一時的に停止した。さらに、地方自治体は、住民に在宅を求め、公共交通機関の使用を控えるよう強く要請している。 ベトナム政府は4月1日から、全国でほぼ15日間の封鎖を発表した。政府は、すべての市民に対して、社会全体の感染を最小限に抑えるために社会的距離を取るよう呼びかけている。学校、病院、または職場以外の公共エリアでの2人以上の集まりは禁止されている。人々はお互いの間に少なくとも2メートルの距離を保つ必要がある。
 
ベトナムの対応に対する国内外の評価
 コロナウイルス封じ込めの政府の取り組みは、社会の統一と規則の遵守に影響を与え、好い結果を生み出している。コロナウイルスに対する戦いで用いられているレトリックは、ベトナム人に愛国心とナショナリズムを呼び起こし、危機に直面して政府への支持を集めた。政府の効果的な情報戦略により、ベトナム人の大多数はコロナウイルスの症状を良く知っているということが最近の調査で明らかになっている2。ベトナムの取り組みは、近隣諸国と比べて、ささやかな医療制度しか持っていないにもかかわらず、印象的である。
 ベトナムの取り組みは国際社会の賞賛も勝ち取っている。世界保健機関(WHO)のベトナム代表は、ベトナムの「積極的で一貫した対応」を称賛した。いくつかの国際的な雑誌は、コロナウイルスと戦うベトナム政府の方針を「民主主義の原則と権威主義的実践の組み合わせ」、「限られた資源とリーダーシップによる封じ込め3」、または「ウイルス危機で心と心を勝ち取る4」と評している。一方、政府は、地域社会への感染を防止するために、強制的な隔離や健康情報とIDの共有などの抜本的な対策を実施している。フェイクニュースと検疫措置違反者に対して、罰金や投獄が課せられている5。他方、ベトナムは経済を犠牲にして国民の生命を守ることを選び、一貫してその選択を守るよう行動した。政府はまた、共感と透明性を奨励し、ネットワーク市民が情報を共有し、より強い予防意識を持つことを可能にした。患者は平等に、そして尊厳を持って扱われている。この二重のアプローチにより、政府は国民の社会秩序と安全を維持しながら、公衆衛生危機との闘いにおいて団結と信頼を築くことが可能となった。
 
 
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1 Worldometer, Confirmed Cases and Deaths by Country, Territory, or Conveyance, https://www.worldometers.info/coronavirus/
3  Financial Times, Vietnam’s coronavirus offensive wins praise for low-cost mode, https://www.ft.com/content/0cc3c956-6cb2-11ea-89df-41bea055720b
4 David Hutt, Vietnam spins virus crisis to win hearts and minds, Asiatimes, https://asiatimes.com/2020/03/vietnam-spins-virus-crisis-to-win-hearts-and-minds/
5 Financial Times, Vietnam’s coronavirus offensive wins praise for low-cost mode
 
 
 グエン・フン・ソン(Dr. Nguen Hung Son)
 国立ベトナム経済大学で学士、バーミンガム大学院で修士、ベトナム外交学院で博士号を取得。2008年にベトナム外交学院に入る迄は、フルタイムの外交官でベトナム外務省ASEAN局の政治部部長。ASEAN憲章交渉におけるベトナムハイレベル・タスクフォースのメンバー、ベトナム公式代表団員としてASEAN行動規範の起草に従事。また、ベトナム外務省ASEAN局のASEAN常設委員会委員長。ベトナム外交学院はJFSSと連携関係にあり、これまで3回にわたりJFSSが主催した国際シンポジウム及び国際セミナーにおける海外招聘登壇者として、日米にとって貴重な意見発表を行った。