澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -436-
武漢市の現況

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2020年)1月23日、中国共産党は、「新型コロナ」拡大のため、突如、武漢市を封鎖した。だが、4月8日、同党は瀕死の経済救済のため、武漢市の封鎖を一部解除した。そのため、内外から武漢市での「新型コロナ」第二波の蔓延が危惧されている。
 既報の通り、3月5日、孫春蘭副首相が武漢市入りした。しかし、孫副首相は、同市の一部住人に「すべて嘘だ」と罵声を浴びせられた。2日後、当局の報復によって、その一区画は人の出入りが完全にロックダウンされている。
 同月10日、ようやく習近平主席が武漢市入りした。習主席による同市視察は、警備が厳しく、まるで大名行列の様相を呈した。住民らは公安に見張られて、習主席には声をかける事すらできなかった。なお、習主席に手を振っていたのは主に公安である。
 また、各マンションの屋上には狙撃手がいて、習主席を厳重に守っていた。他方、主席の警護にあたったSPには、銃に弾が込められていなかったという。主席が暗殺を恐れたためだろう。
 武漢市では、1月下旬から突貫工事で雷神山医院(病院)と火神山医院(同)が相次いで建設された。前者が2月5日に開院され、後者はその2日後の7日に開院されている。その工事の様子は、大仰にもインターネットでライブ配信された。
 武漢市以外の医療従事者は同病院に派遣される事を望んでいなかっただろう。おそらく、ほとんどの人は決死の覚悟で同市入りしたのではないか。
 問題は、この2つの病院は“野戦病院”と化し、どれほどの回復者が出たのか分からない。一部は「新型コロナ」感染者を死亡させる場所となった公算もある。
 4月に入り、雷神山医院では多くの患者が治癒・退院し、大部分の病棟で患者がほぼゼロとなった。そこで、次々と病棟が閉鎖されている。結局、4月10日、同医院では他省市(上海市と広東省)から招集された最後の支援医療チーム約200人が撤退した。
 さて、中国当局の公表する「新型コロナ」感染者数・死者数を簡単に鵜呑みにするわけにはいかない。戦中の“大本営発表”と同じだからである。
 かつて、我々は武漢市内の葬儀場のご遺体焼却から「新型コロナ」感染死亡者を割り出した。1月25日から2月1日の1週間だけで、約2,000から3,000の遺体が焼却されている。
 すでに10週以上が経つ。したがって、少なくとも2万人から3万人の武漢市民が「新型コロナ」で亡くなったと推計できよう。
 だが、一方では、武漢市内に移動式焼却炉40台が搬入されている。同焼却炉は、上海交通大学環境科学与工程学院のチームが開発した。元々、使用済“医療廃棄物を処理”するために作られている。
 焼却炉は標準のコンテナサイズとほぼ同じで、縦6メートル、横2.4メートル、高さが2.6メートルである。850度の高温で、たった2秒で死体を焼却できるという。
 仮に、この装置で遺体が焼却されると、1日、一体、死者はどのくらいの数にのぼるのか。たとえ遺体が2秒で焼却できるとしても、遺体をその焼却装置に入れるのに一定の時間がかかる。また、その遺灰を取り出すのも一定の時間がかかるだろう。葬儀場側は、ごちゃ混ぜになった遺灰を“適当に”遺族に分けたのだろうか。
 中国国内の独立系経済学者、「財経冷眼」(仮名)氏によれば、3月27日現在、武漢市での「新型コロナ」での死者数は5.9万人だと推計した。この数字は、我々の計算のおよそ2倍である。ひょっとすると、妥当な数字かもしれない。
 他方、「財経冷眼」氏は、中国全土の感染者数を121万人、死者数を9.7万と推測している。
 ところで、中国では、武漢市をはじめ、多くの大都市・中型都市で、他地域への厳しい移動制限が行われている。
 4月4日、国家食糧貯蔵局によれば、大中都市は10日~15日間の食糧が準備されているという。逆に言えば、2週間程度で、大中都市の食糧が欠乏するという意味である。4月14日の時点で、そろそろ食糧が尽きる都市も出てくるのではないか。他市からの食糧調達は容易でないかもしれない。
 実際、中国の食糧は必ずしも十分ではない。万が一、他国が中国に食糧を売ってくれないと困った事態に陥るだろう。
 更に、「サバクトビバッタ」数千億匹、ないしは数兆匹がインド・パキスタンへと中国国境まで迫って来た。そして、中国国内への侵入を窺っている。
 習近平政権としては、「一難去ってまた一難」というところではないか。