澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -437-
「新型コロナ」をめぐる中国国内状況

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 既報の通り、今年(2020年)3月、「紅二代」(「太子党」)の任志強が習近平主席を「裸になっても皇帝を気取るピエロ」と揶揄したため、当局に拘束されている。
 同月22日、同じ「太子党」の陳平(陽光衛視)が李克強首相・汪洋・王岐山副主席に(古参幹部を含めた)政治局拡大会議を開催するよう求めた。習近平主席のこれ以上の独裁をストップするためである。
 他方、アリババの馬雲、レノボの柳伝志、SOHO中国(大手不動産)の潘石屹をはじめとする大企業のビジネスマンら10人以上が、李克強首相経由で習主席に対する「9大要求」を提出した。
 (1)「鄧小平路線」の堅持(2)「文革」の否定(3)政治改革の開始(4)民間企業を差別しない(5)企業家の保護(6)全国人民に現金を支給する(7)「新型コロナウイルス」(いわゆる「武漢肺炎」、以下「新型コロナ」)蔓延の責任追及(8)任志強の釈放(9)「李文亮事件」の再調査――を謳っているという。
 更に、中国共産党5大老、李瑞環、温家宝、李嵐清潔、胡啓立、田紀雲が習近平主席に対し「上申書」を提出した。これら一連の動きは注目に値する。
 他方、注目すべきは、「普通の人」が書いた習主席の一人娘、習明沢に宛てられた手紙である。ここでは、その中のごく一部を紹介しよう。
 
 共産党体制の統治は、実際、中国の以前の封建王朝、中国民衆の統治と根本的に違いがない。清・明・元・宋・唐と本質的に変わらないだろう。以下は、私があなたにこの公開書簡を書いた目的である。
 第一に、共産党を解体させ、国民に政治を返しなさい。
 第二に、世界の人々にできるだけ早く謝罪、懺悔、補償をしなさい。
 第三に、教育改革を推進しなさい。教育だけが中国を救うことができる。
 これらが達成されれば、お父様とあなたは、歴史に名前を残すだろう。
 
 なお、4月4日午前2時頃、北京市中南海で3発の銃声が聞こえたという噂が広がっている。だが、その真偽は定かではない。
 さて、今年4月、広州市で「新型コロナ」の“第二波”が確認された。広州市には約4,500人のアフリカ出身者が住んでいる。その中で、100人以上のアフリカ人が「新型コロナ」に感染した。そのため、マクドナルドなどの一部の店では、アフリカ人の入店を拒否するなど、人種差別が起きている。また、警官らが黒人を小突き回したり、パスポートを取り上げている映像がツイッターなどで拡散された。
 一方、今年4月15日、中国民用航空局は「新型コロナ」感染の拡大した国々に滞在していた中国人2,744人がすでにチャーター機で帰国したと明らかにしている。
 同局によれば、中国政府は3月4日から4月12日にかけて16機のチャーター便を手配し、イラン、イタリア、英国、米国、スペイン等に滞在していた(留学生を含む)中国人を帰国させた。
 けれども、まったく全く別ルートで中国人が帰国したため、黒龍江省が「第2の武漢」になりつつある。
 中国人ビジネスマンが、ロシア国内での「新型コロナ」拡大のため、帰国しようとした。中国もロシアも国際線を減便、または休止させている。そこで、彼らは国内便でウラジオストックへ飛び、そこから中ロ国境までバスで移動した。
 そして、中ロ国境の街、黒龍江省綏芬河市から中国国内へ戻った。一部の中国人ビジネスマンらは、「新型コロナ」を保有して帰国する。だから、黒龍江省では「新型コロナ」が蔓延している。そのため、隣りの内モンゴルでは、省境を閉鎖した。
 実は、ロシアのプーチン大統領は、「新型コロナ」の感染者と死者の急増に神経を尖らせている。プーチン大統領にすれば、元来、中国人がロシア国内で「新型コロナ」を流行らせたと考えているだろう。
 しかし、今や、習近平政権は、ロシアから帰国した中国人ビジネスマンが黒龍江省で「新型コロナ」を撒き散らしていると喧伝している。プーチン大統領としては、不本意ではないか。他方、プーチン政権としては、1日でも早く「新型コロナ」を制圧し、経済成長を遂げたいだろう。
 ところで、以前、我々は、習近平政権が「新型コロナ」をコントロールした目安として、次の3つを指摘した。
 (1)北京で、両会(全国人民代表大会と政治協商会議)が開催される。香港情報によれば、全人代は5月23日に開催予定だと報じられている。
 (2)小中高の授業が再開される。一部の地方では、受験を控える中3と高3の授業が始まった。また、多くの省市では小中高の授業も再開されている。しかし、一部の地方では、小中高の授業再開が延期された。
 (3)中朝国境が再開される。金正恩政権は、建前として「新型コロナ」感染者がゼロだという。けれども、依然、中朝国境は閉じられたままである。