「グローバリズムの終焉」
―歴史観を持ち次世代に残す企業経営を―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 米国をはじめとする旧西側陣営はこれまで中国を自由主義国並みに扱ってきた。ブッシュ時代の2001年、中国を世界貿易機関(WTO)に迎え入れたからだ。中国が自由主義国並みの扱いを受ければ、いずれ共産主義体制は緩み、なし崩し的に自由主義体制に変化してくるだろうと期待したからだ。ところがそういう扱いを受けた中国はどうなったか。 
 軍事、民事両面にわたる分野で、中国は猛烈に発展し、100周年に当たる2049年には、米国と同レベルの軍事力を持つ目標に迫った。WTO加入以来、中国は留学生を米国や香港大学の科学部門に100人単位で送り込み、企業に就職させ、あらゆる技術を盗み出させた。トランプ政権になってから厳しい「安全保障」上のチェックを行って、大学、企業、研究所などからの中国人追い出しが始まっている。
 中国が露骨な覇権主義を変えないことが分かって、グローバル化の流れは終わった。製品は多数の国に分散して部品を作り、それを1ヵ所に集めて完成する方式が一般化していた。分散企業のメインランドが中国である。トランプ大統領は中国に立地した米企業の米国への帰還を熱望している。はしなくもコロナ騒ぎで世界はサプライチェーン(部品供給網)の一角でも崩れると全製作工程が止まり、深刻な不況に陥る経験をした。サプライチェーンのあり方と国家の安全が深く結びついていることを学習した。
 翻って日本はどうか。中西宏明・経団連会長(元日立製作所社長)は「日本にとっては人口が日本の十倍以上あるお隣の中国は巨大なマーケットであり、無視するなんてのは論外です」(日経ビジネス)という発想だ。日本では平凡な親中派の理屈だが、中国を巨大消費地とだけ考えて国家が成り立つのか。トヨタの豊田章男社長は「中国に最新・最高の研究所を作る」と宣言した。中国で開発された発明品は中国政府が完全に知ることができる。今起こっている現実は、中国が知的財産権を無視して他の国の発明品を勝手に使い、新たな発明品も自由に開発できる。
 これを黙認してきた西側が、危うく劣勢に立っているのが現実だ。トヨタ社長だった奥田碩氏は経団連会長として大規模な訪中団を結成し、当時、JR東海社長だった葛西敬之氏(現名誉会長)を誘った。葛西氏は「中国に新幹線は売りません」と答えた。その理由は「中国は機関車でも車両でも1台ずつ買って、あとは自前でコピーを作る。それで事故でも起これば日本の責任だというに決まっています」というものだった。
 現実に事故は起きたが、事前に「自己開発」と言ったせいか事故車輛を土中に埋めて事故原因は分からず仕舞い。米ソ冷戦下のように売っていいものと悪いものを分別する必要がある。自社の利益だけを追求するのでは経営者とは言えない。歴史観を持ち次世代にどんな日本を残したいのか考えて欲しい。
(令和2年5月13日付静岡新聞『論壇』より転載)