経済体制返還のとき
―親中政策を採り続ける日本外交の狂気―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 米ソ対立時代、世界は米国を中心とする西側とソ連を中心とする東側に分断されていた。二つの経済体制ははっきりと違ったものだった。ソ連が潰れて世界一体の経済体制となったはずだが、今になってみると中国は強権政治を背景にした異質の経済・軍事世界を形成するに至った。
 中華人民共和国は実は中国共産党を利する政治形態であって、西側の自由主義陣営とは全く異なる政治体制である。その共産党の下で中国が発展してきた手法は、海外の大学、研究所、企業に何百人、何千人単位で秀才を送り込み、潜り込んだ先の研究成果を丸ごと盗み取り、本国に送ってそれを軍民共用で利用するものだった。
 中国側の勝利を象徴するのが、中国の通信機器最大手、ファーウェイ(華為技術)の成功だろう。ファーウェイは世界を席巻するほどの強さを示している。自由主義(西側)のルールでは勝負して敗けた会社は引っ込むと決まっている。ユニークな半導体を作っている会社はユニークな部分では勝っても他の分野がジリ貧になれば、結局ファーウェイに買収されてしまう。ファーウェイは勝負を仕掛けて世界中の通信機器企業を買収した。
 なぜファーウェイが強いか。ウォールストリート・ジャーナル紙は昨年12月の調査報道で、ファーウェイが最大750億ドル(約8兆2,042億円)の国家的支援資金を得ていたと明らかにした。中国はWTOに加盟(2001年)する際、企業への国家資金補助や違法な規制をしない約束をしたはずだ。8兆円もの国家補助金を得れば、どこの会社とケンカしても勝つに決まっている。
 トランプ大統領が立ち至った結論はこの異質の国と同じ土俵ではフェアな勝負はできない。西側風の新しい土俵を構築することしかない。中国を同一の市場から排除するという決断だった。コロナ騒ぎなど並みの国なら、首相が「迷惑をかけて申し訳ない」と謝るのが常識だろう。原因は他にあるかのように構えて責任をとろうとしない。こういう国とはとてもまともな付き合いはできない。
 トランプ氏が先がけたのは不正な手段によって巨大化したファーウェイを陳腐化することだ。5月18日、米商務省はファーウェイに対して8月から禁輸措置を発動すると発表した。通信業界は次世代通信規格(5G)を誰が握るかでしのぎを削っている。
 ファーウェイはこの2月の時点でフランス、ドイツに新工場を建設する目途がついたといっていたが、コロナを境に情勢は一変した。半導体受託生産の最大大手である台湾積体電路製造(TSMC)がアリゾナ州に最先端の半導体工場を建設すると発表した。蔡英文総統が米側市場に参画する決心を決めたということだろう。ドイツ、フランスも中国離れを起こしており、トランプ氏の発想に賛意を示すに至った。この時点で親中色をむき出しにしている日本外交は狂っている。
(令和2年5月20日付静岡新聞『論壇』より転載)