「米中激突」
―香港・台湾・コロナ―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 米国の香港優遇策廃止案を見ると、その背後の対中国政策が見えてくる。「大学研究機関を守るため、安全保障上のリスクとみなす者の中国からの入国禁止」「軍民両技術の輸出規制など香港の特例措置の撤廃手続き開始を支持」などは明らかに背後の中国に向けられたものだ。留学生の追放は3,000人規模に及ぶといわれているが、人の交流を絶つ、中国に立地した企業を引き上げるとなれば、国交断絶に近い形になる。これに対して中国側が折れる兆しはみじんもない。
 台湾に対する一国二制度は台湾の現体制を認めたうえで合併するとか連邦を造るという姿でなければ「交渉」の余地はない。断固武力で征服するということであれば、米中の激突ということになるだろう。米中が激突すれば、わが尖閣列島も無関係であり得ない。中国が尖閣に手を付ければ日中激突だ。いま中国がコロナウイルスで世界中に迷惑をかけているにもかかわらず、尖閣諸島周辺で日本漁船を追い払ったり、ベトナム漁船を沈没させたりしているのは、尖閣占拠あるいは台湾占領は絶対にやめないという意思表示だろう。
 中国が揚げている「2049」は米国と軍事力を均衡させる目標年次とされている。均衡すればハワイ以西の太平洋の覇権を握るということらしいが、そのためには台湾占領が不可欠である。香港への仕打ちは台湾占領への小手試しのつもりのようだが、日本人の台湾に抱く心情は一種の〝親戚感情〟である。台湾がかつて日本の〝植民地〟であったという感情ではない。合併して一時期兄弟として暮らしたという親しみの感情である。その親しみの感情は台湾側にもある。東日本大震災の時、台湾人が送ってくれた見舞金はなんと200億円という途方もない額であった。彼らの温かさが全日本人の胸を打った。
 ウイグルはウイグル語を話すモスレムで人口1千万人。中国はこの人たちを百万人単位で収容所に入れ中国共産主義を教育中であるという。世界の流行は地方分権である。地方ごとに自らの文化を維持してどこが不都合なのか。一国二制度と言えば主流と別に独自の文化を守ってもいい筈だが、中国の考え方はレーニンが唱えたコミンテルンと呼んだ国際共産主義指導組織さながらである。
 コミンテルンと自由・民主主義・基本的人権が衝突すれば妥協点はない。中国はコロナ以前にはロシア、欧州と親しかったが、コロナと香港問題で欧州のうち英国は完全に反中国に転換。フランスも中国離れを起こしている。
 産業界はグローバリズムの流れを失敗と断じ、コストがかかっても重要部品は自国で作る方向で動いている。その指標となるのはファーウェイという中国の情報通信機器だ。米国は安全保障面の理由で輸入禁止に踏み切った。これに英仏日などが同調、中国が情報通信機器を独占する可能性は無くなった。米国は台湾企業に重責を負わせる意向のようだ。
(令和2年6月3日付静岡新聞『論壇』より転載)