澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -449-
再び決壊の危機が叫び始められた三峡ダム

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2020年)6月2日以降、豪雨のため148の中国河川で洪水が発生し、26省市、11,220,000人が被災している。そこで、水利部(日本の国土交通省に相当)は、広西、広東、江西、浙江、湖南等へ災害対策チームを派遣した。
 現在、中国には98,000以上のダムが存在する。その中で94,000のダムは小規模ダムが占める。
 中国の代表的ダムと言えば、湖北省宜昌市の三峡ダムだろう。北京政府が威信をかけて造設した世界最大級のダムである。ただし、このダムは建設当初から問題を抱えていた。
 2020年6月20日付『大紀元』「王維洛独占インタビュー:三峡ダムプロジェクトでは洪水を防げない。脱出用バッグを用意しよう」という記事が興味深い。ちなみに、王維洛は『三峡工程三十六計』の筆者である。
 インタビューの中で、王はダムの問題点について次のように語っている。
 第1に、ダム建設の際、コンクリート注入工事が拙速だった。
 第2に、中国共産党は、ダムを模範的創造物としようと考えた。そこで、オーストリアのダム建設監督会社を招いた。建設のプロセスで、同会社は、中国人労働者による鉄筋コンクリート鉄筋溶接をすべて不合格とした。だが、同党は、その審査を外国人による中国人蔑視だとして、建設監督会社の評価を無視したのである。
 第3に、ダム工程の設計等は、すべて1組の人間(銭正英と張光斗)に任されていた。だから、チェック機能がほとんど働いていない。
 加えて、一説には、李鵬首相一族の関連企業がダム建設を請負い、李一族に巨額の賄賂が渡ったという。したがって、手抜き工事が行われた公算が大きい。
 三峡ダムは1993年に着工され、2009年、完成した。しかし、完成当初から、ダムにはたくさんの亀裂が入り、問題視されていたのである。
 さて、昨2019年夏、グーグルアース(Google Earth)が三峡ダムの映像を捉えた。そして、ひょっとして堤防が湾曲しているのではないかと騒がれた。中国当局は、はじめダムは湾曲するよう設計されているという奇妙な言い訳をした。そのため、近い将来、ダムが決壊するのではないかという疑念が深まった。
 最終的に、当局はグーグルアースの画像がおかしく、実際の堤防は歪んでいないと噂を否定している。
 ところが、今年6月に入って、三峡ダムが危険な状態にあると再び囁かれ始めた。最近の豪雨で、上流の四川省や重慶市で洪水が起き、三峡ダムの水位が急上昇したからである。
 6月17日、四川省カンゼ・チベット族自治州丹巴県の発電所が流され、土石流が発生した。また、同月22日、重慶市江津区綦江五岔では、最高水位達が205.56メートルにも達した。洪水防止のための制御水位200.51メートルよりも5.05メートルも高くなった。そのため、重慶市は大洪水に見舞われている。同日、四川省アバ・チベット族チャン族自治州でも洪水が起きた。
 四川省と重慶市から溢れ出した水が、一挙に下流の三峡ダムへ流れ込んだと仮定しよう。そして、ダムが決壊したら、巨大な津波が長江流域の大都市、武漢・南京・上海等を襲う。たちまち数億人が被災するだろう。目下、中国では「上海将変海上(上海が海に変わる)」という言葉が流行っているという。
 同時に、ダムの堆砂が長江一帯に流れ出し、工場地帯や穀倉地帯に多大な被害を与えるだろう。3.5億の人口を抱える長江流域は、全国耕地の25%、同穀物生産の40%、同棉花生産の33%、同淡水魚生産の66%を占めると言われる。
 周知の如く、「新型コロナ」で武漢市等にある日系企業は、サプライ・チェーンがストップし、大きなダメージを受けた。多くの日系企業は「チャイナリスク」に気付いたはずだが、未だ中国に固執する企業があると聞く。
 ところで、前述の「王維洛独占インタビュー」の中で、中国軍事に詳しい楊浪が次のように述べたと記されている。
 長江の流域経済は、中国全体の40%を占める。もし三峡ダムが決壊したら、その下流の4億人がその影響を受ける。
 仮に、中国軍が台湾を攻撃した際、台湾軍から反撃を受けて三峡ダムが崩壊した場合、中国軍落下傘部隊の90%が多大な打撃を受ける。また、解放軍予備軍は壊滅するだろう。楊浪は、このように指摘した。
 万が一、中国軍が台湾攻撃を開始したら、台湾側は射程1,500キロメートルの中距離ミサイルで三峡ダムを攻撃するに違いない。台湾本島から三峡ダムまで、せいぜい1,100~1,200キロ程度である。そのためか、近年、台湾は射程が中距離ミサイルの開発・配備に力を入れている。
 以上のように、中国にとって、三峡ダムが戦争の際の“アキレス腱”となっている。一旦ダムが決壊したら、北京政府には為す術があるまい。そして、中国共産党の終焉が訪れるだろう。