澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -450-
「国家安全維持法」等に関する香港世論調査

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2020)6月26日、ロイター通信が香港版「国家安全維持法」に関する世論調査結果を公表した(同通信社が香港民意研究所に委託)。6月15日から18日(同20日、同法が発表される直前)にかけ、同研究所が香港市民1002人に対し電話インタビューを行っている。結果は香港人の本音が垣間見えて興味深い。
 第1に、56%の香港市民が香港版「国家安全維持法」の立法に反対している(その中の49%が「断固反対」)。立法を支持する人は34%で、その他「意見なし/どちらとも決めていない」が10%だった。
 第2に「反送中」運動(「逃亡犯条例」改正反対運動)については、依然、51%の香港市民がデモを支持している。ただし、今年3月の調査と比べて7ポイント下降した。一方、デモ反対派は今回34%で、3月よりも6ポイント上昇している。
 第3に、デモ隊の「5大要求」中、「独立した調査委員会を作り、香港警察の取締り(暴力)を徹底的に調べる」件に関して、今回、66%が支持した。だが、3月の時点よりも10ポイントも下がっている。
 ちなみに、「5大要求」とは、(1)逃亡犯条例改正案の完全撤回―すでに実現された―、(2)デモを「暴動」と認定した香港政府見解の取り消し、(3)警察の暴力に関する独立調査委員会の設置、(4)拘束・逮捕されたデモ参加者らの釈放、(5)行政長官選や立法会選での普通選挙の実現、を指す。
 第4に、「普通選挙の実施」を支持する香港市民は61%で、3月よりも7ポイント下落した。
 第5に、林鄭月娥(キャリー・ラム)香港行政長官の辞任ついては、未だ香港市民57%が賛成している。だが、3月当時、63%の人が辞任に賛成していたので、6ポイント下降した。
 第6に、「香港独立」については、香港市民の21%が支持している(3月の数字を維持)。他方、「香港独立」に反対する香港市民は、3月の56%から60%へと上昇した。
 第7に、「香港の現状は誰の責任か」という質問に対し、香港政府の責任と答えた人が39%、香港警察と答えた人が7%だった。3月と比べると、前者は4ポイント、後者は3ポイント下がっている。
 同じ質問で、「民主派」に責任がある、または、中央政府に責任があると答えた香港市民が共に18%だった。3月と比べて、両者共に4ポイント、アップした。
 既報の通り、昨年11月、区議会選挙で「民主派」は8割の議席を獲得した。今年9月6日、立法会選挙が行われる。
 そこで、第8に、今回、「民主派」への支持が尋ねられた。53%が支持すると回答したが、3月よりも5ポイント落ちている。一方、「親中派」への支持は、3月から7ポイントアップして29%に上昇した。
 今回、なぜ全体的に「反送中」運動への支持が減少に転じたのか。
 周知の如く、今年に入り、中国で「新型コロナ」の蔓延が明らかになった。香港は、かつてSARSによる苦い経験を持つ。そのため、香港政府は「新型コロナ」に対して厳しい対応を取り、その封じ込めに成功した。これが香港政府への支持を少し回復させたのかもしれない。
 同時に、「新型コロナ」の流行で、香港ではデモが規制された。そのため、「反送中」運動が若干下火になっている。
 さて、香港が「1国2制度」から「1国1.5制度」あるいは「1国1制度」へと変貌して行く中、中国に対し徹底抗戦の構えを見せる人達がいる。彼らは当地を自分の故郷として捉え、「香港独立」や「香港民族」等を唱える。
 他方、一部の香港人の間では、“諦めムード”があるのではないか。彼らは、英国やオーストラリア・ニュージーランド、あるいは、台湾や東南アジアへの移民を真剣に模索している。
 ただし、そう考える香港市民がいても決して不思議ではない。もともと、香港は「借りた場所、借りた時間」(ハン・スーイン『慕情』)だったのである。
 実は、5月下旬、台湾総統府は、香港市民や高度人材の長期滞在、または永住を歓迎すると表明した。また、6月3日、ジョンソン英首相は、約300万人の香港市民を同国に受け入れる考えを明らかにしている。
 ところで、6月25日、米上院は香港の「高度な自治」の侵害に関与した中国高官や関連組織、それらと取引のある海外の金融機関に対し、米政府が制裁を科すよう求める「香港自治法案」を全会一致で可決した。
 同法案は、大統領に対し中国高官(例えば、中国共産党中央香港マカオ工作指導小組組長の韓正や副組長の趙克志と夏宝竜等)や関連組織等(例えば、香港上海銀行)のビザ発給停止や資産凍結などの制裁を科すよう求めている。今後、下院での可決と大統領の署名を経て成立する見込みである。
 これから香港やウイグルの人権をめぐり、米中は更なる激突が予想されよう。