澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -452-
中国歴代王朝末期の様相を呈している習政権

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2020年)はすでに半年が経過したが、北京政府は次々と厄災に襲われ、中国歴代王朝末期の様相を呈している。
 2012年秋、習近平政権が誕生して以来、同政権は鄧小平が推し進めてきた「改革・開放」を放棄し、社会主義を復活させた。その典型が2015年に導入した「混合所有制」だろう。
 活きの良い民間企業とゾンビ化した一部国有企業を合併した。そのため、確かにゾンビ企業は生き残った。だが、合併してできた民・国企業は活力を失っている。
 実は、中国経済は、習主席の登場以降、ほぼ毎年、右肩下がりだった。更に、去年末から中国で流行した「新型コロナ」の影響で、今年1-3月期、中国のGDPは-6.8%を記録している。今年5月下旬、北京で開催された全人代では、2020年の経済成長目標値が打ち出せないという異例の事態に陥った。ひょっとして、中国経済はすでに破綻しているのではないか。
 同時に、目下、中国では、次々と災禍に見舞われている。
 (1)「新型コロナ」第2波が北京市等に襲来(2)「豚→人」感染する豚インフルエンザが発症(3)内モンゴルで「ペスト」蔓延の危機(4)全国各地で豪雨による洪水が発生。
 その他、三峡ダムが危険視されている(昨年夏、Google Earthで、ダムが湾曲していると騒がれた)。今年6月に入り、長江の水かさが増した。ダムの上流に当たる四川省や重慶市では豪雨で小規模ダムが決壊し、洪水の被害が出ている。仮に三峡ダムが決壊したら、武漢市はもとより、南京市、上海市までもが大被害を受けるだろう。
 このような国家的危機の中、政治局常務委員(最高権力者)の多くが、北京市を脱出した。習近平主席や李克強首相は、半ロックダウン中の北京市に残って、コロナ収束に尽くすべきではないのか。あるいは、水害に遭った重慶市や武漢市等へ行き、陣頭指揮を執るべきではないのか。ところが、2人とも北京市を離れている。
 他方、中国軍は、南シナ海の3海域で、米軍(2つの空母打撃群)に対抗すべく、軍事訓練を行っている。今、人民解放軍は、不要不急の軍事訓練などしている場合だろうか。被災者の救助活動にあたるべきではないのか。以上の状況を見ると、習近平政権がすでに統治能力を失っていると言っても過言ではない。
 だが、一方で、中国共産党は香港の「民主化」弾圧に固執している。今年6月30日、全人代常務委員会で「香港国家安全維持法」(以下、「国安法」)が全会一致で可決され、翌7月1日、施行された。
 この「国安法」にはいくつも問題点が散見される。
 第1に、「国安法」と「香港基本法」が矛盾する場合、前者を優先するという。
 第2に、「テロ罪」については犯罪行為が具体的に列挙されているが、「国家分裂罪」・「国家権力転覆罪」に関しては具体性に欠ける。「罪刑法定主義」からすると、好ましくない。当局が恣意的に条文を解釈し、気に入らない人物を逮捕・起訴できるようになるだろう。
 第3に、普通、裁判は公開が原則だが、「国安法」では秘密裁判も認められている(法輪功を弾圧した「610弁公室」の復活か)。
 第4に、我々外国人が注目すべきは、第38条である。刑法の「(国家)保護主義」の立場から、「国家分裂罪」・「国家権力転覆罪」・「テロ罪」については、香港永住権を持つ人以外の外国人にも適用されるという。
 刑法では、原則「属地主義」を取り、犯罪が起こった場所(管轄権)を重視する(ただ、「属人主義」に従って、海外で罪を犯した人間を国内や海外で裁くこともあり得る)。
 けれども、場合によっては、「国安法」に抵触した人が、香港入境しなくても(「旗国主義」により)香港籍の船舶や飛行機の中で、香港警察に逮捕される可能性がある。
 さて、話は変わるが、ネットでは、香港に関して(習近平主席を揶揄する)次の計算式が話題になっている。
 
 1997年+50年=2020年
 
 1997年7月、香港は英国から中国へ返還された。「中英共同声明」・「香港基本法」では50年間「1国2制度」による香港の“高度な自治”が認められていた。ところが、2020年7月(まだ23年しか経っていない)の時点で、香港は「国安法」施行に伴い、「1国1制度」へと変貌した観がある。
 これで香港については、習近平政権の“大勝利”かと言えば、必ずしもそうとは言い切れない。前述の通り、習近平政権は末期的症状を見せている。また、米国の「香港自治法」等の法律および“国際的中国包囲網”の形成が北京への圧力となるかもしれない。
 今後、今までの香港(自由・民主を謳歌)が完全に消滅するが早いか、中国共産党政権が崩壊するが早いか、予断を許さない状況が続くだろう。