澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -453-
2020年も低迷する中国の消費

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2020年)7月16日中国国家統計局は、今年4~6月期のGDPが(物価変動の影響を除いた実質ベースで)前年同期比3.2%増だと発表している。だが、この数字には疑義が残るだろう。以下はその理由である。
 実は、同月8日、『中国経済網』に興味深い世論調査が発表された。「テンセント・フィナンシャル・レポート―『新型コロナ』後、6割近い国民の収入が減少、投資財テク傾向は堅調―」という報告書である。
 騰訊理財通連合券商中国は、ペンギン・リサーチと共同で、国内在住者を対象に調査を実施した。この世論調査には、(1)実施期間(2)実施方法(インタビューが電話方式なのか、それとも面接方式なのか等)(3)サンプル数(4)調査の精度(誤差がプラスマイナス3%とか5%)が見当たらない(ひょっとして、我々が見落としているのかもしれないが)。
 ただ、中国国内で行われる世論調査は、極めて貴重である。仮に、これがある程度正確だとして、その結果を紹介しよう。
 第1に、中国では「新型コロナ」発生以来、57.4%の国民が多かれ少なかれ収入が減少したという。収入が減った人の中で、17.5%の人が5割を超える収入減、15%の人が2~5割の収入減、24.9%が2割の収入減である。
 今回「新型コロナ」が世界的に蔓延したため、経済的に1番ダメージを受けたのは自営業者だという。彼らの78.2%が収入減となった。その中で3割の人が、5割を超える収入減となっている。
 第2に、一般に中国では国民全体の負債が多い。国民の約7割が異なる形態で借金をしているという。(1)42%が住宅ローン(2)26.8%が消費者金融ローン(3)16.4%が車のローン――である(一部の人はローンが重複)。
 これを年齢別に見ると、1980年以降生まれの世代(現在、40歳以下)が74%と最も多い。他方、その両親である1960年以降生まれの世代(現在、60歳以下)で借金する人は45%である。
 「新型コロナ」の流行後、大半の人は収入が不安定なので、ローン返済へのプレッシャーに直面している。それは、特に「新型コロナ」の蔓延で深刻な影響を受けた産業従事者、脆弱な零細企業、及び、その関連企業に勤める労働者達に顕著だという。
 第3に、「ポスト・コロナ」においては、71.7%の人が、財テクに関して慎重になっている。しかし、10.1%の人は積極的な財テクを行うと答えた。また、18.2%の人が、以前とは変わらないで財テクを行うとしている。
 なお、財テクを行う人の83.9%が、今年の収益は4%以下と見込んでいる。他方、16.1%の人が4%を超える収益を予測する。
 目下、各国中央銀行は、様々な金融財政緩和政策を採用しているため、金利が下がり続けている。例えば、マネーファンドの利回りは2%を下回る。これでは、いくら財テクを行っても、なかなか収益が上がらない。
 ところで、同年7月11日付『騰訊』では上述の調査を基にして「『新型コロナ』で8割近くの中国人の収入が減少し、2割半の人が『露天商』の開始を望む」という記事を掲げた。
 この記事によれば、今後のフィナンシャル・プランで、29.5%の人が消費を減らし、貯蓄すると回答した。つまり倹約して生活費を切り詰めるという。
 他方、52.9%の人が、新たな収入を増やすための道を模索すると答えた。その方策として、1番目に多いのは財テクで、全体の41.3%にのぼった。2番目には、25.9%の人が「露店商」を始めたいと考えているという。
 後者の数字は、他の副業―ネットでの予約カービジネス、テイクアウト・ビジネス、小規模ビジネス(マイクロマーチャント)、YouTubeやブログ等のセルフメディアでの副業―を上回った。
 周知の如く、「露天商」経済を推進したい李克強首相(「改革・開放」の鄧小平路線の継続を望む)と「露天商」のような小規模ビジネスに否定的な習近平主席(鄧路線を軽視し、社会主義の復活を目指す)との間には深刻な対立がある。
 今年5月28日、李首相が全人代終了後での記者会見で、中国の昨2019年のGDPはたった42兆元(1人当たり3万元×14億人)だったと暴露した。円換算すると、およそ630兆円程度である。
 今度の調査結果は、2020年も中国の消費の停滞を暗示している。2015年同様、消費が再びGDPの30%台に逆戻りするかもしれない(ちなみに、2016年以降、消費が右肩下がりで、昨19年はGDPの40.4%まで落ち込んでいる)。したがって、生産も伸び悩むだろう。
 悪化する経済状況下、すでに習近平主席の党内における求心力は失われたと言っても過言ではない。そのため、李首相の習主席に対する“巻き返し”が奏功する可能性も捨て切れないのではないか。
 結局、習主席の掲げた“中国の夢”―世界覇権掌握―は、“夢物語”で終わる公算が大きいだろう。