アメリカ大統領選挙の結果をどう見るか

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政策提言委員・ハーバード大学アジアセンター・フェロー 尾上定正

 米大統領選挙は11月7日午前、バイデン前副大統領が接戦州の一つのペンシルベニア州を制し、勝利したと報じられた。開票集計作業は現時点でも続いており選挙結果はまだ確定してないが、バイデン氏は7日夜に勝利演説を行い、民主党と共和党の分断を乗り越えアメリカ合衆国としての融合を訴えた。一方のトランプ大統領は、7,100万の適正な投票を獲得し勝利したのは自分だとツイッターに投稿、選挙に不正があったとして既に複数の訴訟を起こしており、週明け(9日)から本格的に法廷闘争を行うと明言している。
 このような泥仕合を避けるためには、バイデン候補の圧倒的な勝利(Land sliding victory)が必要と言われていた。実際、選挙前の世論調査はそろって7~10ポイントの差をつけてバイデン勝利を予測していたが、現時点での全得票率の差は3ポイント弱に過ぎない。世論調査やメディアの事前予想が大きくはずれたのは前回2016年の大統領選挙と同様であり、同じ失敗を繰り返したことにハーバード大学の専門家や教授達は落胆している。
 マサチューセッツ州は圧倒的に民主党支持者が多いので、落胆の理由は世論調査が外れたことよりもすっきりしない選挙結果の方が大きいのだが、それでもバイデン勝利が報じられた7日午後には、車のクラクションを鳴らして喜ぶ若者たちが見られた。投票日以降、大学やシンクタンク等は世論調査の手法やメディアの偏向等の学術的な分析に加え、選挙結果の様々な視点について専門家による討論をオンラインで実施している。これらを踏まえ、断片的かつ暫定的ではあるが、現時点における今回の大統領選挙とその影響についての私的な考察をまとめた。
 
1 アメリカの民主主義(American Democracy)の危機
 選挙当日、米ニューヨークタイムズ紙は“Democracy Reform in America?”というタイトルのオンラインのニュースレターを配信し、民主主義を守るためには民主主義の制度や規則を時代の要請に応じて変えなければならないが、アメリカは現状維持バイアス(Pang of status quo bias)に苦しんでいると主張した。
 米国は第2次大戦後の自由で開かれた国際秩序(Liberal Internationalism)を創設し、主導してきた自由民主主義の総本山だが、その米国の民主主義が危機に瀕しているという認識は強い。世界中の80人を超す歴史学者等が署名した「民主主義の光をどう維持するか」という公開書簡(10月31日付)は、「選挙結果にかかわらず、米国の民主主義は我々が承知している通り、危機に瀕している」、「トランプがどういう存在であれ、民主主義への危険は彼の大統領就任とともに訪れたのではなく、11月3日以降もずっと続く」という書き出しで始まる。実際、総得票数が結果と相違する可能性が有る選挙人団選挙制度(Electoral College)がずっと維持されていること、州ごとに異なる投票や集計方法、上限の無い選挙寄付金、対立候補を誹謗中傷する広告、議会選挙区の区割りの歪み等、米国の現行制度には多くの問題が指摘されている。
 下院民主党は2018年の中間選挙直後に続き、本年9月23日にも民主主義制度の改善を目的とするパッケージ法案(the Protecting Our Democracy Act)を提出している。だが、今回の大統領選挙と同時に実施された下院選挙で民主党は過半数を維持すると見られるものの、当初の10~15議席増には遠く及ばず、微増に止まりそうだ(こちらの世論調査も外れた)。
 なぜ、民主主義制度の改善が進まないのかとの問いに対する答えは今回の選挙の分析を含め十分な検証が必要だが、ある教授は、縮小する白人マイノリティと宗教原理主義者が既得権益を守るため現行制度を盾としていると指摘している。政権奪還する民主党も社会主義者を自任するサンダース氏や左派の副大統領候補ハリス女史を支持する声は若者を中心に大きく、中道のバイデン大統領確定候補がどの程度民主制度の改善に踏み込めるかは未知数である。
 日本を始め西側諸国は、米国の危機を克服する粘り強さ(Resiliency)を信頼してきたし、事実米国は多くの苦難を乗り越え、内外の米国没落予想を覆してきた。今回の選挙はかつてなく高い投票率(67%)と投票数(1億6千万票)を達成したことに、米国民主主義の希望を見る声も多い。だが、今回の選挙で一層露わになった分断をどのように克服するのか、バイデン次期大統領に負わされた責任と課題は重く大きい。それ以前に、トランプ大統領の法廷闘争の展開と選挙結果の確定、更には1月20日に向けた政権移行という困難な道がまだまだ続く。NYTのレターに、「民主主義の規範の根幹は自己の利益を超えて民主主義のルールを尊重する政治家の存在だが、このことは政治家に明示的に要求されてもいないし、法に書かれてもいない」とある。詰まるところ、民主主義制度の進化は政治家とその政治家を選択する国民一人一人の民主的価値観の成熟度に帰着するのかもしれない。
 
2 一層深刻化した米国の分断
 今回の選挙によって米国社会の分断がより深く、広く進行していることが明らかとなった。熱烈なトランプ支持者は銃で武装し民主党支持者集会に圧力をかけ、バイデン支持者も武装して対抗する構図が繰り広げられ、両者の暴力的な衝突の危険性さえ無視できない。選挙結果を青(バイデン、民主党)と赤(トランプ、共和党)で色分けした地図を見れば、東西の海岸州と中央の内陸州にハッキリと色分けされる。地政学的になぞらえると、Rim land(沿岸)州とHeart land(中央)州の分断であり、対立軸は人種構成(移民の多い多様人種州と白人中心州)、産業構造(多国間関係重視と米国第一主義)、社会思想(リベラルと保守)等、様々に引かれる。筆者が最も納得した対立軸は、都市(Urban)と田舎(Rural)の分断であり、接戦州は都市と田舎の両方が混在し、その州の中でも都市はバイデン、田舎はトランプという色分けが歴然とした。もちろん、このような単純化された対立構造の分析では、対立を超えて国民を統合する方策は導き得ない。だが、対立が暴力を伴う分断に至れば、その傷を癒すのに一層の時間と宥和が必要となろう。そうしないためには、対立軸の一つ一つを丁寧に観察し、両者を融合させる具体的な施策を展開する他ない。そのような視点で参考となるのはフロリダ州の選挙結果であろう。
 ハーバード大学歴史学部のアレハンドロ・デ・ラ・フエンテ(Alejandro de la Fuente)教授の分析では、マイアミ・デード郡は選挙登録人の3分の2をキューバ系アメリカ人が占め、民主党は2016年の選挙(ヒラリー・クリントンが30ポイントの差で勝利)の再来を期待したが、今回バイデン候補のリードは10ポイント以下に大幅縮小した。その結果、筆者もバイデン勝利か接戦と予想していたフロリダ州は早い段階でトランプ勝利が確定したが、教授の分析によれば、キューバ系に限らずその他のラテン系アメリカ人は、白人労働階級と似た投票行動を示しており、現政権の対キューバ政策との関係はほとんど無い。
 信頼できる追跡調査によれば、ラテン系米国人の投票行動を左右したのは、経済、ヘルスケア、移民や治安等の主流の問題であった。ただし、トランプ政権はキューバ系米国人を組織的に味方につけており、それは民主党員を「社会主義者」と位置づけ、「共産主義」やニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)ベネズエラ大統領のような独裁者に親和していると印象付けることに成功したからだと言う。マイアミは大都市でありラテン系移民が多く、前述の対立軸を基準とすると濃い青色となる(2016年はその通りとなった)はずだが、結果は薄い青色となりフロリダ州全体のトランプ勝利(51.2%)に繋がった。これに寄与したのが現政権の主流課題の政策に対するキューバ系住民の支持の故か、あるいは民主党に対する情報戦の効果なのかは判然としないが、便宜的な対立構造を必要以上に重視することは事実を誤認する恐れがあり、建設的な議論を阻害する。民主党側もこの結果を分析し、教訓を導出する必要があると思われる。
 
3 新型コロナ禍の影響
 今回の大統領選挙は、やはり新型コロナ禍の影響を除いて語ることはできない。選挙期間中を通じてトランプ大統領のCOVID-19対策は、両候補の重要論点として議論されてきた。選挙戦終盤にはトランプ大統領夫妻も感染し、投票日以降一日あたりの新規感染ケースが10万人を突破、6日には13万人に迫り、過去の記録を更新している。民主党はトランプ政権のコロナ対策を大失敗と批判し、科学と専門知識を蔑ろにした結果、出さなくても済んだ多数の死者を出してしまったと糾弾してきた。さらにその被害は人種マイノリティや社会的弱者に不公平に圧し掛かるというヘルスケアの問題を指摘している。
 これに対しトランプ大統領は、ウイルス拡大は中国の責任だとして批判をかわし、コロナ禍よりも経済活動の再開を優先させた。その結果、雇用状況は大きく改善し、2020年第3四半期(7~9月)の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率33.1%となり(米国商務省が10月29日に発表)、市場コンセンサス予想の32%を上回り、統計開始(1947年)以来最大の伸び率を記録した。米AP通信 VoteCast surveyの調査によれば、米国が直面する最も重要な課題として41%の投票者がパンデミックを挙げ、その内の73%がバイデンに投票している。
 2番目の重要課題として28%が経済と雇用を挙げ、その内81%がトランプに投票している。経済とコロナ対策の重視度が両候補支持者で明確に分かれる結果となったことが分かる。さらに、米国公共ラジオネットワークであるナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)の調査によれば、トランプ大統領はコロナ禍の死者率が高い多くの地域で得票率を伸ばしている。別の調査の結果では、大統領に必要な資質として71%の有権者が権威主義的人格を挙げ、強い大統領を求める傾向が明示された。これはNPR調査の結果にも符合し、マスクを着用せず、自らの感染にも短期間で復帰したトランプ大統領のパフォーマンスがトランプ支持を押し上げた可能性が高い。新型コロナ禍は郵送による期日前投票と不在者投票を大きく増加させ、開票集計の遅れとトランプ氏が指摘する不正(根拠は示されていない)の一因ともなった。パンデミックは前述の通り、ますます拡大する傾向を見せており、本格的な冬の到来とインフルエンザ流行の可能性と合わせ、政権移行間のコロナ対策と経済活動の両立がどう図られるのか、引き続き最重要の問題となる。トランプ大統領が約束したワクチンの開発動向にもよるが、バイデン次期大統領に対しコロナ対策で目に見える結果が求められることは間違いないであろう。
 
4 サイバー攻撃・情報戦による選挙介入
 今回の選挙では、中国やロシアからの選挙介入やサイバー攻撃に関する報道が非常に少ない。数少ない報道の中で米国の国防・安全保障専門ニュース配信サイトDefense Oneの記事、「2020年の選挙に大規模なハッキングは無かった、それは何故か;米国のサイバー防衛隊はより行動的になり-おしゃべりになったからだ(“A Big 2020 Election Hack Never Came. Here’s Why ; America’s cyber defenders are getting more proactive - and more chatty.”)」は、米サイバーコマンド司令官のNakasone大将(NSA長官兼務)のコメントを引いて、米国のサイバー対処が成功していることを報じている。曰く、「我々の民主的なプロセスを邪魔しようとする相手に対峙する時、我々は同様に妨害する機会がある。我々の選挙に介入しようとするいかなる国家或いは主体に対しても、我々は行動する」、「過去数週間及び数ヵ月、我々の選挙に介入できないように敵対者に対してとった行動に十分な自信を持っている」、と。
 米国にとって2016年大統領選挙時の民主党を対象としたロシアのハッキング攻撃はトラウマとなっており、これを教訓に米サイバー防衛チームは2018年の中間選挙に万全の態勢で臨んだと言われる。今回の選挙における情報戦・サイバー戦はその実績に基づくものであり、2018年11月に本土防衛省(DHS)内に設置されたCISA(Cybersecurity and Infrastructure Security Agency)はその象徴といえる。更にサイバーコマンド・NSA等が対応措置をプレスに公開していること(おしゃべりになっていること)も戦略の一環であると記事は指摘している。
 Defense Oneは、超党派のAlliance for Securing Democracy(民主主義保障同盟)の新興技術フェロー、Gorman氏の、「全般として、NSA・サイバーコマンドは、2016年に防衛戦を行った当時の脅威からも長足の進歩を遂げた外国勢力及びその影響力を詳細に把握していることを証明した。特に、敵の行動を予期し、発動前に防止する;ソーシャルメディア、研究者及び外国パートナーとの調整を増す;我々の民主主義に介入する敵のコストを増やす;そして、我々の選挙と民主主義をより強固にするため、このような脅威について国民との明確なコミュニケーションを優先する」というメッセージを紹介している。
 これらの見解を踏まえると、米国は今回の大統領選挙に対する諸外国からのサイバー攻撃や情報戦・影響戦を効果的に防止することに成功していると判断できよう。米国は、Persistent Engagement(持続的な対処)とDefend Forward(前方防衛)をサイバー作戦の戦略としており、今回の大統領選挙でのサイバー介入阻止作戦においてこの戦略の妥当性に自信を深めたと思われる。だが、サイバーコマンドもCISAも、法廷闘争が予想される今後数週間にわたる偽情報戦を懸念しており、その兆候は既に表れている。ポール・ナカソネ(Paul M. Nakasone)米国サイバー軍司令官は、「戦いは終わったのではなく、これから始まる」と警戒を解いていないが、問題は、アメリカ人と米国内のキャンペーンによる情報戦である。記事は、「たとえ、サイバーコムやCSIAが外国からの影響を排除できたとしても、米国自身が傷ついた自尊心を癒すために怒りの妄想に屈服し、米国自身のパーセプションをハッキングしようとする米国自身の傾斜を防衛する手段は無い」と結んでいる。
 サイバー攻撃による選挙介入や民意への影響戦は、民主主義国にとって深刻な脅威である。米国は外国からの攻撃に対しては効果的な防御作戦(場合によっては予防攻撃を含む)を展開していると思われる。だが、国内勢力からの様々な影響戦に対する効果的な対応への回答は未だない。現職の大統領が根拠を示さず選挙の不正を公言し、支持者の熱狂を煽ることを止めるのは、サイバー攻撃や情報戦とは別の問題かもしれない。
 
5 今後の展開
 今後の展開については二つのポイントがあろう。一つは政権移行の見通しであり、もう一つはバイデン政権の政策指向である。政権移行については、トランプ大統領は敗北を認めず、法廷闘争で勝利を目指すと明言しており、平和裏の政権移行は難しい。法廷闘争がどう展開するのか、トランプ大統領がどのような形で「退場」を受け入れるのか、現時点で予断はできない。だが、政権移行が揉めれば揉める程、これまで米国が批判してきたベラルーシやベネズエラなどの独裁国家と米国もさほど変わらないと国際社会は見るであろう。
 バイデン次期大統領は7日夜の勝利演説でトランプ大統領とその支持者に向けて、「トランプ大統領に投票したすべての皆さん、今夜のあなた方の落胆は良く分かる」、「私自身も二度負けたことがあるが、今はお互いにチャンスを与えようではないか。刺々しい言い方は止め、熱気を下げて、もう一度お互いに向き合い、話を聞くときである」と語りかけた。バイデン氏は、「アメリカの悪魔化したようなこの嫌な時代を今ここで終わらせようではないか」と和合を求めたが、トランプ氏の予測不能な行動を危惧する有識者は多い。
 ハーバード大学ケネディスクールのステファン・ウォルト(Stephen Walt)教授は4日のパネル討論で、トランプ氏の強みは「衰えを知らないむき出しのナショナリズム」であり、負けてもFox Newsやツィッターでバイデン批判を繰り返すかもしれず、また2024年の大統領選での仇討ちに向けたキャンペーンを早速始めるかもしれない、と話した。
 米国政府官僚経験者で日米両国の財界に通じたグレン・フクシマ(Glen S. Fukushima)氏も「予想外のことを予期しておくべき(Expect unexpected.)」と指摘している。CIA長官や米国疾病予防管理センター(CDC)ファウチ長官等の粛清人事、イランへの攻撃(イスラエルのネタニヤフ首相がプッシュ?)、南シナ海・北朝鮮等での行動の可能性を挙げる声もある。
 一方で、政権移行期間の混乱に乗じる中国やロシア等の動向にも十分な注意が必要だ。共和党の一部にはトランプ大統領から距離を置く議員も出ているとされ、またFox Newsの報道姿勢も変わりつつあるとの見方もあり、トランプ陣営の中から平穏な政権移行を促す動きを期待したい。日本としては、この問題を単なる選挙に関わる米国の内政問題としてではなく、米国の世界における求心力と指導力にかかわる、世界の民主主義の秩序を揺るがす可能性のある問題として今後の展開を注目する必要がある。
 バイデン次期政権の政策指向については、全体としてトランプ政権の単独主義(Unilateralism)から多国間協調主義(Multilateralism)への転換、優先課題として①コロナ対策、②経済(Build Back Better)、③格差是正、④気候変動、⑤国際地位回復が挙げられる(Fukushima、2020民主党プラットフォーム10章)。また、78歳という高齢を考えると、大統領専用機で世界を飛び回る外交は負担が大きく、権限を副大統領や各長官に委任した政権運営となろう(Walt)。従って次期政権の主要ポストに誰が配置されるかが重要であり、対中政策に関しても、国務長官にスーザン・ライス(Susan Rice)元国連大使が就任するかどうかが一つの指標となると見られている。バイデン氏は中国に対し、「競争には厳しい姿勢だが攻撃的ではなく、適当な課題には協力(Competitive but not provocative、cooperate if appropriate)」という姿勢で臨むと見られるが、議会の超党派の対中強硬姿勢に押される可能性もある。
 上下院の議会勢力もまだ確定していないので予断はできないが、議会との関係、民主党内の急進左派との関係、また同盟国等からの信頼低下(ピユーによる13の同盟国指導者への調査)など、次期バイデン政権の足を引っ張りそうな状況も多く予見される。人事に関しても約4,000の政治任用ポストの内1,200は上院承認が必要であり、共和党が多数派となった場合には難航する可能性が有る(Fukushima)。日本としては、菅総理とバイデン次期大統領の信頼関係を早々に築きたいところだが、対日政策の優先順位は高くない。
 ニューヨークタイムズ紙は7日、「Biden to Face Long List of Foreign Challenges, With China No. 1(バイデンは中国を筆頭に外交課題の長いリストに直面する)」との記事を掲載したが、そのリストは中東問題、欧州とブレグジット、北朝鮮の核脅威、ロシアとプーチン、パリ協定と国際取り決めへの帰還と続き、日本への言及はない。それだけ日本が同盟国として信頼されており大きな問題は無いと善意に解釈するとしても、米中関係、北朝鮮、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)等、米国の主要な外交課題において日本の役割は非常に重要となる。ウォルト教授は、「米中対立の中で各国は中立でいることはできない、特に米国の安全保障を期待するのであれば」、「欧州は既にそれを理解し米国に頼らない方向に転換している」と指摘した。
 バイデン政権では大幅な国防費削減の可能性が高く、日本に対しより大きな役割と負担増、そして明確な日米同盟機軸の姿勢を求めてくると考えられる。ケネディ大統領は「どの国も国力以上の外交力を発揮することはできない」と述べた。バイデン次期大統領は分断・対立する米国の国力を基盤に外交に臨まざるを得ない。日本は同盟国としての外交力を発揮するためにも、日本自身の国力の増強にまずは集中するのが良いのではないだろうか。
 
マサチューセッツ州ケンブリッジの自宅にて
2020年11月8日18:00 EST