澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -473-
何も決まらなかった中国共産党19期5中全会

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2020年)10月26日から29日にかけて、中国共産党の19期5中全会が開催された。結論を先取りすれば、今度の5中全会は、「習近平派」と「反習近平派」の妥協の産物だった。
 同会で、習近平主席のリーダーシップが発揮された形跡は見られない。おそらく、「反習派」の“巻き返し”で、「習派」は政権維持がやっとの状況ではなかったのだろうか。
 第1に、同会人事では、今の習近平・李克強体制後、誰が後継者に指名されるのか注目された。以前、陳敏爾・重慶市トップと胡春華・副総理が、次期主席・首相として有力視されていた。だが、最近、急浮上したのは、上海市のトップ、李強である。そして、李強こそが、習主席の後継者になるのではないかと噂されていた。
 けれども、陳敏爾・胡春華・李強らの人事は決定されなかった。この時期、重要な人事が決まらないというのは、党内が分裂してまとまっていない証左だろう。ちなみに、習近平主席は終身制(1982年に廃止された「党主席」が復活か)を敷いて、第20期(2022年~27年)・第21期(2027年~32年)も政権を担うつもりかもしれない。しかし、この案には大きな疑問符が付く。
 第2に、人事以上に重要なのは、これからの経済政策である。
 5中全会では、確かに、2021~25年の「第14次5ヵ年計画」が打ち出された(各期の5中全会では通例「5ヵ年計画」を可決)。ただし、今年5月下旬に行われた全人代同様、今回も、具体的な目標数字が示されなかったのである。
 数字は、ほとんど過去のモノばかりだった。例えば、昨2019年、1人当たりの可処分所得は、3万733元(約48万2,000円)、今年第3四半期までの1人当たりの可処分所得は、2万3,781元(約37万3,000円)だったという。
 また、同会では、2035年までの長期目標を掲げた。そして、「1人当たり国内総生産(GDP)を中等先進国並みにする」との目標を設定している。だが、中国には、月収2,000元(約3万1,400円)以下の人が約9.64億人いて、全体の68.85%を占める。実現は不可能に近いだろう。
 さて、2015年、「中国製造2025」が発表された。中国が「製造大国」から「製造強国」を目指す意欲的な経済政策だった。だが、いつの間にか、「中国製造2025」は叫ばれなくなった。近年、計画が挫折したためではないか。
 周知の如く、米中貿易戦争及びワシントンによるファーウェイ(華為技術)等への制裁で、中国は経済的に追い込まれている。その上、武漢市で「新型コロナ」が発症し、瞬く間に中国全土へ拡がった。また、長江・黄河流域での水害、バッタの蝗害、新型のウイルス発生も報告されている。そのため、生産も消費も落ち込んだ。
 そこで、習近平政権は、内外の「双循環」を謳い始めた。「内循環」(国内循環)を主とし、「外循環」(貿易や対外開放)を従とした政策を打ち出した。謂わば「自力更生」路線である。しかし、これは単に社会主義政策の復活に他ならない。
 最近、習近平政権は、民営企業にさえも、国有企業並みの“思想強化”を要求している。これでは、民営企業が自由な経済活動を阻害される。将来、更に、中国経済は右肩下がりとなるだろう。
 実は、5中全会では、台湾に関しても話し合われた。結局、習近平政権は、台湾への「戦狼外交」展開、あるいは、台湾との「武力統一」を選択するのではなく、今後、「平和統一」という従来の路線を採ることにした。
 以前から、我々が主張しているように、中国軍が台湾を攻め落とすのは容易ではない。したがって、中国共産党の決定は妥当ではないか。
 台湾には最大4,000人単位の米軍が駐屯できるという。在日米軍は、沖縄に2万3,000人弱、日本本土に約2万2,000人、合計約4万5,000人近くが駐留する。
 日本の面積は、37万7,900km²、他方、台湾は3万6,190km²である(面接比は、日本が台湾の10.44倍)。したがって、仮に米軍が台湾に4,000人規模で駐留しているならば、在日米軍とほぼ同程度の兵力だと考えられる。また、いざとなれば、在沖米軍約2万3,000人も(約700キロメートル離れた)台湾防衛に赴くに違いない。
 現在、米連邦議会では、「台湾侵略(未然)防止法」(Taiwan Invasion Prevention Act)が提出されている。もし、この法案が成立すれば、中国軍が台湾を脅かす行動に出たら、大統領はすぐさま米軍を出動させ、それを阻止する事が可能になるだろう。
(「Japan In-depth」より転載)