澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -474-
米大統領選でトランプ再選を熱望する台湾

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2020年)11月の米大統領選挙は、依然、公式な結果が出ていない。そのため、トランプ大統領側とバイデン前副大統領側の間では、予断を許さない状況が続いている。
 今回、米メディアによるバイデン候補「当確」が早々と出たが、習近平政権はなかなか祝意を表さなかった。
 実は、中国共産党とバイデン候補は関係が深い。実際、習近平主席とバイデン候補は2011年8月から2017年1月まで、少なくとも4回は会っているという。2人は周知の間柄である。しかし、ようやく同月13日、北京は祝意を表明している。
 さて、今の習近平政権は、トランプ大統領とバイデン候補、どちらの当選を望んでいるのだろうか。習政権の本音を推測するには、台湾がトランプ大統領とバイデン候補、どちらに当選して欲しいかを考えれば、おのずから答えが出るだろう。
 今年(2020年)9月17日から20日にかけて、台湾の『遠見』雑誌が行った世論調査では、49.1%の人が(希望的観測を含め)トランプ大統領が勝つ、他方、23.7%が、バイデン候補が勝利する、と答えている。また、53.0%の人がトランプ再選の方が台湾にとって有利だと答えた。だが、16.4%がバイデン当選の方が台湾には良いと回答している。ちなみに、バイデン支持者は、「親中派」の国民党系ではないか。
 更に、翌10月8日、英国の世論調査会社「YouGov」が、ヨーロッパ7ヵ国とアジア・太平洋8つの国と地域を対象に、「トランプ大統領を支持するか、それとも、バイデン候補を支持するか」という世論調査を行った。同月15日、「YouGov」は、その調査結果を公表している。他の国々と異なり、台湾においてはトランプ支持が42%で、バイデン支持(30%)を上回った。
 台湾人はトランプ大統領に対し、59%は「良い印象」か「普通の印象」(つまり「悪くない印象」)を持っている。また、45%の人々は、「トランプ再選の方が台湾に良い影響がある」、他方、26%が、「バイデン当選の方が台湾にプラスである」とそれぞれ考えている。
 では、なぜ、台湾ではトランプ支持者が多いのか。それは、同大統領が今までの在任期間中(2017年1月~現在)、台湾に対し一貫して友好的な態度を示してきたからに他ならない(米連邦議会も大統領に追随している観がある)。
 思いつくままに、具体例を挙げてみよう。
 第1に、2018年3月、米国で「台湾旅行法」が法制化された。米国と台湾のリーダー達が容易に相互訪問可能な法律である(かつて台湾の総統・行政院長<首相>等は、自由に訪米できなかった)。
 第2に、同年6月、台北市に米国在台協会(AIT)の新庁舎が落成した。そのため、当地には在台米軍が最大4,000人駐屯可能になったという。
 第3に、2019年8月、トランプ政権は、台湾へロッキード・マーチン製F-16V(66機)の売却を決めた(今年8月、米台間で契約が成立)。なお、米国が台湾に戦闘機を売却するのは、1992年、F-16A/B計150機の売却を承認して以来である。
 第3に、2019年12月、トランプ大統領は、2020会計年度(19年10月~20年9月)の国防予算の大枠を決める「国防権限法案」に署名し、同法案が成立した。そこには、中国による(今年1月に行われた)台湾総統選挙、立法委員選挙への干渉に対し、初めて米国の関心が示された。
 第4に、現在、米連邦議会には「台湾侵略(未然)防止法」(Taiwan Invasion Prevention Act)が提出されている。近い将来、この法律が制定されれば、台湾が中国軍から何らかの脅威を受けた際、米軍はすぐに出動可能となるだろう。
 第5に、トランプ大統領は、 第2次安倍政権が掲げた「セキュリティ・ダイヤモンド」構想を受け入れ、日米印豪で「対中封じ込め」政策を行っている。安全保障の観点からすれば、台湾は十分恩恵を受けていると言えよう。
 以上、台湾の「主流民意」はトランプ支持と見て間違いない。ならば、反対に、習近平政権はバイデン候補の当選を渇望しているはずである。
 実は、中国の「順豊(SF)エクスプレス」が米大統領選挙で(不正に?)使用された投票用紙を印刷し、米国へ郵送したという。仮に、これが事実だとするならば、北京は今回の大統領選挙で、バイデン候補を直接、アシストした公算が大きい。
 一方、「反習近平派」は、バイデン候補の息子、ハンター・バイデンのハード・ディスク3枚をトランプ側に送った。これはトランプ大統領再選支援の動きである。「反習派」は、トランプ政権を利用して習政権を打倒しようと企てているのかもしれない。
(「Japan In-depth」より転載)