「日米首脳会談」
―中国の軍事・経済対応策は―

.

会長・政治評論家 屋山太郎

 菅首相とバイデン米大統領との首脳会談が16日、ワシントンで開かれる。会談の主要テーマは中国に対する軍事的、経済的対応策に絞られるだろう。トランプ氏が叩いた中国経済にさらに強力な打撃を加えるかどうかがポイントだ。
 軍事面から見ると中国の近年の出しゃばり方は尋常ではない。保安艦艇に軍備を施し“海警法”という軍事規律まで作った。海警艦によって尖閣諸島を占有し、あるいは尖閣、台湾を一挙に攻める手もある。
 中国政府は、台湾は「核心的利益」とみて「一国一制度」に固執している。香港の一国二制度をあっという間に切り崩した手法を見ると、中国が台湾を獲りに来るのは時間の問題だ。米国は最近台湾高官が米政府の建物の中に入り、米側の実務者と定期会合をしてもよいとの指針を出した。有事の際は、日本は何ができるかも議論されるだろう。
 日米会談での国際経済の分野では、これまで中国が盗んでいった技術、製品を「全部返せ」と言うほど厳しい方針が打ち出されるだろう。2001年に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した際、西側は途方もない大サービスをした。その裏で中国にも「100日以内に開放的で市場指向の貿易体制を確保せよ」と言ったはずだが、その後10~15年も経って「返事なし」である。その結果が、自由主義世界の精密機器や企業秘密を駆使した中国製品が世界に溢れている。
 トランプ前大統領の命令は端的に言って「元に戻せ」というものである。その理由は「経済的に損をしたから」というものだけではない。製品に埋め込まれたマイクロ・チップなどを通じ、自動車内を含めて、あらゆる個人情報が収集されることがあり得るという保安上の問題だ。かつて世界一位の通信機器メーカーを自認していたファーウェイは、LGディスプレイなどにスマホ向けのディスプレイの供給を断られた。続いて、米、英、豪、印も取引を止め、現在競争中の5G基地局の建設さえ危ぶまれることになった。中国が5G局の覇権を握ると、経済制覇に近づくことになるという専門家の意見がある。
 片やGDPの伸びについて中国政府の発表はほとんど信じられていない。中国政府の中からも否定する声がある。なぜ曖昧か。7つの地方経済の“報告”を集めて国単位の経済統計に手直しすること自体が難しいのである。地方は6%成長以上の報告を出さないと減点されるから、サバを読んだり無理な儲けを企てる。その常套的手法が鉄道とマンションの建設だ。高速鉄道は通常運転でも常に赤字が出るほど資金をつぎ込んでいる。北京、上海の新築マンションの価格は投機のため高騰し、今や平均年収の20倍。バブル期の日本を超えている。一部の専門家によれば、日本のバブル崩壊のような経済的な没落が間近に迫っていると見てもおかしくない状況だという。
(令和3年4月14日付静岡新聞『論壇』より転載)