「菅首相、2050年カーボンニュートラル表明」
―IAEAより風評被害優先の小泉環境相に大臣の資格なし―

.

会長・政治評論家 屋山太郎

 菅義偉首相は2050年に温室効果ガス排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)を表明した。モノを燃やせばガスが出る。ガスを出さずにエネルギーを得るには太陽熱、風力発電と原発ぐらいしかない。北欧のように恒常的に季節風が吹いている地域なら、風力発電で国民の必要なエネルギーを調達できるかもしれない。私も現地を視察したことがあるが、一瞬で「日本は違う」と悟った。太平洋は荒れる時はすさまじい。洋上風力発電など、どんな頑丈なものを作っても巨大な嵐が来れば一発でひっくり返るだろう。太陽光発電も屋根にパネルを取りつけても最近の暴風雨状態を見れば無理と断じざるを得ない。菅首相がガス排出ゼロを宣言すれば日本の向かう道は原子力開発しか残っていない。国民の原発アレルギーを払拭しなければ、国民が自国のエネルギーに不安感を持ち続けることになる。
 思い切って太陽光パネルと風車で全エネルギーをまかなおうとすれば、専門家の計算だと本州面積の3分の1を太陽光パネルが占め、日本の排他的経済水域(EEZ)のほとんどを風車が占めることになる。これは嵐などによる事故なしの計算だ。
 40~50年前には「地球の温暖化などはウソだ。原因は炭酸ガスなどではない。地球自体の地殻変動だ」と打つ政治家がいたが、今はほとんどいなくなった。先日テレビで、海中のサンゴ礁が色を失い、死んでいくドキュメンタリー映画を見た。海中温度が2.5度上がったのが致命傷だという。新しい環境に強いサンゴを養殖する実験も見たが思わしくない。
 私はゼラニウムの赤い花が好きで、玄関脇に2メートルの花壇を設けて、30年が経つ。この花を綺麗に咲かせるには開花前にやってくる1センチほどの毛虫退治が不可欠だ。ところがそのイヤな仕事を2、3年前からする必要がなくなった。毛虫が温暖化でいなくなったからだ。あるいは虫が50キロほど北に生息地を変えたのかもしれない。喜ぶ一方で、悪い出来事の方が多いだろう、とも感じる。
 カーボンニュートラルが正しい道だとしたら、日本が取り得る道は原子力再生の道しかない。国民に真摯に原子力開発の方に顔を向けるようにせねばならない。「福島原発の処理水が海洋汚染を起こす」と中国、韓国は日本を非難している。ホントにまずいならやめるべきだ。しかし加藤勝信官房長官が4月13日に述べたところによるとこうだ。韓国の場合、2016年の1年間だけで136兆ベクレルのトリチウムを月城原発から放出している。これに対して福島第1原発に貯蔵されているトリチウムの総量は860兆ベクレルだ。月城原発の6年分に過ぎない。これを年間22兆ベクレルのペースで、約40年かけて海洋放出することになっている。これにIAEAも米国も賛意を表明している。小泉進次郎環境相は地元の風評被害に同調して決めきれない。大臣の資格はない。
(令和3年5月5日付静岡新聞『論壇』より転載)