「自民党中枢に食い込む親中派―中国観を改めよ」

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会長・政治評論家 屋山太郎

 新政権に臨むに当たって、全議員、全国民は従来の世界観を一新して世界を見直さなければならない。たまたま9月末、ホワイトハウスで日米豪印4ヵ国の枠組み(QUAD)で、首脳会議が行われた。一方で豪州の軍事力強化を狙って「AUKUS」同盟が結成された.仏が受注していた潜水艦の発注を米豪がキャンセルしたことで米仏間は険悪な空気だが、仏、独、英も「開かれたインド太平洋」が危うくなっている認識では一致している。
 米欧にわたる世界情勢の動きは、好き嫌いの次元で動いているわけではない。中国の狂気ともいえる軍事費増に脅かされて動かざるを得ないと言っていいだろう。中国の国防費は2001年WTO(世界貿易機構)に加入した頃から、毎年15%、20%と増え続け、21年は1万4千元に近づいている。日本の防衛費の4倍以上になる。
 しかもGATT(関税と貿易に関する一般協定)加入以来、戦略武器を軍民共同で進化させてきた。米国はトランプ大統領が安全保障の立場から戦略物資の輸出入を禁止。何千人もの留学生のビザを取り消した。
 これだけ世界の中国観が様変わりすると日本人の中国観も一新せねばならない。日本の親中派は「日米安保条約で日本は安泰なのだから、日本は中国と仲良くし、米中の間を取り持たなくてはならない」という。米国におためごかしを言いながら、日本は中国と仲良くして利益を得ようという発想である。
 その代表的な派閥が宏池会である。93年河野洋平官房長官が根拠のない「官房長官談話」を出したが、この時の総理が宮沢喜一氏である。
 麻生太郎氏や河野太郎氏は一時この宏池会に籍を置いたが、なじめないので宏池会から脱会した。しかし河野太郎氏の対中観は父親と全く変わらないのではないか。その理由として河野家は中国に太陽光パネル関係の会社を3社持っている。菅首相が進めた脱炭素事業は2030年には現在56%の火力発電を41%に下げる内容になっている。河野氏は表ではカーボンニュートラルの騎手気取りだが、実は日本で減らした熱エネルギー分を中国の太陽光パネルを買って調達しなければならない。日本の太陽光パネル業者はあらかた中国に敗れて中国が世界の8割のパネルを作っているという。「国策だ!」と言って、中国の自分の会社から買うこともあるだろう。古来日本では政治家は商売をしないのが決まりだとだけ言っておく。
 中国の王毅外相は、ある会合で岸田文雄氏を見つけて別室に連れ込み「君は宏池会じゃないか」とささやいたという。もう少し中国をかばってくれということだが、事ほど左様に自民党中枢に親中派が食い込んでいるのだ。
 中国はウイグル方式でチベットなど周辺民族を漢族に同化させてきた。自治だけでは不安だから押しつぶして合併するのは共産主義の方式で、そのおかげで75年続いてきた。しかしこの方式は「ここまででよし」とする限界がない。中国が揺らぐまで我々が頑張るしかないのだ。
(令和3年9月29日付静岡新聞『論壇』より転載)