繰り返される韓国の悲劇、なぜ再発を防げないのか

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政策提言委員・経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員 藤谷昌敏

 報道によれば、1月11日、光州(クァンジュ)市西区花亭洞(ファジョンドン)の39階建てマンション「現代アイパーク」新築工事現場で、23~38階部分の外壁が崩落し、車20台余りが下敷きになる事故が発生した。消防当局は現在まで3人を救助し、連絡が途絶えた作業員6人の救出に取り掛かっている。今回の外壁崩落事故は、39階屋上でコンクリート打設作業をしていた際に発生し、外部圧力や衝撃などにより外壁が崩れ落ちた可能性がある。また韓国メディアは「完成を急ぎコンクリートが乾かないうちに積み上げていったのではないか」との憶測も伝えている。現在、崩落が再度発生する懸念から隣接する住商複合ビル入居者と商人約200世帯も避難している状況だ。
 事故が発生したマンションの施工業者はHDC現代産業開発で、HDCグループ(ヒュンダイ)の持ち株会社であるHDCホールディングスからのスピンオフにより2018年に設立された。ここ数年、コロナ禍にもかかわらず、順調に業績を伸ばしており、京釜高速道路、中部高速道路、南海高速道路などの建設を手掛けたほか、経営難に陥ったアシアナ航空の買収にも乗り出したこともあった(後、中止)。
 このHDC産業開発は昨年6月の崩壊事故で死傷者17人が発生した光州市鶴洞4区域住宅再開発事業の施工業者で、事故後、現場関係者ら責任者に対する裁判が進められている。当局の調査の結果、現場所長らは作業計画書を作成しておらず、事故当時に正規の手順でない撤去作業が行われていたことを認識しながら必要な措置を取らなかったとされる。
 
 韓国は、こうした大きな崩壊事故が続発する国であり、過去には、1994年ソウル漢江聖水大橋崩壊、1996年ソウル三豊百貨店崩壊、1966年パラオで韓国企業が建設した橋崩壊、2007年ロッテワールド工事現場崩壊、2009年マレーシアで韓国企業が建設した最新式競技場の屋根崩落、2009年インドで韓国企業が建設中の橋崩落、2015年ベトナムで韓国企業の足場崩壊で死者多数、2018年韓国企業が建設したラオスダムの決壊など内外で事故が発生した。中でも三豊百貨店崩壊事故とラオスダム決壊事故は大きく報道され、世界的にも有数の崩壊事故として有名だ。
 
三豊百貨店崩壊事故
 三豊百貨店(サンプン)は、ソウル特別市瑞草区にあった百貨店で、1989年12月に開店し、当時、韓国で国内第1位の売上高を誇る高級百貨店として名を知らしめていた。当初、この建物は、地上4階・地下4階建てのオフィスビルとする設計で起工したが、建設途中で三豊側が5階建てのデパートに用途変更することを決定した。三豊は、建設業者の宇成建設に変更を要求したものの、同建設会社が設計変更を行うのは危険だとして拒否したため、代わって三豊建設産業が建設することになった。
 開業して約6年後の1995年6月29日、地上5階・地下4階、A棟とB棟で構成される建物のうち、売り場の多くが集中するA棟が突如、跡形もなく崩壊し、死傷者1445人、うち死者が502(508人とする説あり)人という韓国史上最悪の惨事となった。事故の原因としては複数の要素が挙げられているが、特に問題だったのは、売り場に防火シャッターを設置するため、ビル中央部の柱の4分の1が撤去されたこと、またビル中央部にエスカレーターを設置し吹き抜け構造としたが、本来なら柱を補強すべきところを、デザインを重視したために逆に4分の3ほどの太さに削減し、鉄筋の数も削減した。さらに、当初計画より1階分を増やしたことや、80トンの給水タンクが屋上に設置されたことで、建物全体が大きな強度不足に陥っていた。
 事故発生の前日に天井のひび割れが発見されたが、営業は強行され、経営陣は建物の異常を把握していたにもかかわらず、避難命令を出すことなく、建物が崩壊する直前に真っ先にデパートから脱出した。このように建物の崩壊は、人災によって引き起こされた可能性が高く、建築会社だけでなく経営陣の責任も追及された。
 
ラオス・セーピアン・セーナムノイ副ダム決壊事故
 セーピアン・セーナムノイ副ダム決壊事故は、2018年7月23日にラオスのチャムパサック県パクソン郡に建設中であったセーピアン・セーナムノイダムの副ダムが決壊した事故であり、マイ村など19村の2,657世帯、14,108人が被害を受け、42名が死亡した。
 問題のダムは、10億ドル(約1,100億円)規模のラオスの国家プロジェクトで、韓国のSK建設と韓国西部発電が2012年に共同受注し、タイ政府系発電会社とラオス国営企業と合弁会社(筆頭株主・韓国SK建設)が建設に当たっていた。当初、ダム建設の入札には日本企業も参加していたが、SK建設側が「日本より格段に安くする。日本より短期で完成させる」と強引に受注に成功した。
 この事故について、韓国側は「集中豪雨が原因だ」と主張したが、ラオス政府は「手抜き工事が原因だ」と否定した。現地では、「韓国人がひどいダムを建設して国民を虐殺した」「韓国を許してはならない」「韓国にもう何も造らせるな」などという怒りの声が上がった。
 
日本を追い抜いたものの
 なぜ韓国企業が関わると、事故が多発するのだろうか。
 韓国企業が関わった事故の特徴を挙げるならば、建築関係の法令違反、監督庁との癒着、設計図と異なる建築仕様、鉄筋など強度に関わる建築資材の除去、粗悪なコンクリートの使用、競争入札の際の異常な安値による入札、常識外の短期の建築期間などである。こうした事故の続発にもかかわらず、韓国国土交通部と海外建設協会は2021年1月、「昨年の海外建設受注額が目標額300億ドルを大きく超え、351億ドル(約3兆6千億円)となった」と発表した。ちなみに日本の2020年度海外建設受注額は、1,694件、1兆1,136億円で、前年度に比し、件数は422件減少し、金額は9,473億円減少した。
 こうした数字を見れば、韓国は日本を大きくリードしているように見える。だが、韓国が目指すのは、ただ経済的に日本を追い越すだけではなく、高度な技術力に裏付けされた安心安全な設備やインフラを建設し、その国や地域に貢献することなのではないだろうか。それこそが真に先進国であることを証明することになるのだ。まずは韓国企業のみならず、韓国政府がきちんとした賠償と今後の事故発生防止に最大限の努力をし、信頼回復に努めなければならない。