「中国の対外政策行きづまり」
―「一帯一路」「製造2025」「米中貿易戦争」「中国系企業の買収規制強化」―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 米中貿易戦争は米側のやりたい放題の様相である。米側は中国側に稼がれた分だけ関税をかけて取り返すという発想である。中国側も同率の関税をかけて応酬したい考えだが、米国の貿易赤字の規模が大きすぎて、中国側は同率の関税で報復するわけにはいかない。関税のかけ合いなら、どう見ても中国側の負けなのである。
 経済状況を見ても米側は全体として景気上昇の気運なのに、中国側は沈み加減なのだ。通常、経済戦争をすると全体が沈下してしまうのが常だが、大国の一方だけが沈むというのは米国の勝ちが、皆の目にはっきり見え始めたからではないか。
 欧州では一貫して中国を儲けの対象として見てきたが、最近の欧州の雰囲気は様変わりである。中国に甘かったメルケル独首相は原子力設備や備品を扱うメタル・スピニング社を中国系企業が買収することを禁じた。その寸前にはロボット製造のクーカー社の買収を許可していた。方針が変わった動機は米国が独、英、仏、豪、加の5ヵ国に中国の企業買収を厳しく選別するよう依頼したからだ。
 米国自身も「外国投資監査委員会」(CFIUS)を議会決議によって権限を強化し、中国企業がブロードコムのクアルコム社を買収するのを禁じた。価格は1,170億ドルという空前の価格だった。
 「中国企業の買収締め出し」号令によって中国への投資は90%減ったと言われる。中国の対米投資も激減しているという。
 米国はすでに活動していた中興通訊(ZTE)は、向こう7年間にわたる米国におけるビジネスを禁止した。
 習近平主席が掲げる政策スローガンは「一帯一路」と「中国製造2025」というものである。両政策とも2015年に打ち出され、これを貫徹するために習氏が終身首席に就いたとも言われる。
 「製造25」というのは2025年までに中国がITの分野で一流国になるという目標である。そのために知的財産は盗む、企業を買収する、中国に立地した西側企業が秘密にしている技術移転を強要した。欧米は当初は巨大な中国市場に目がくらみ、技術移転に応じてきたが、技術が中国側にのみ流れていく状況は西側の企業にとっては耐え難い。
 トランプ氏があらゆる通商協定に反対し、貿易は2国間で協定を結ぶのがいいと主張し出したのには、根拠がある。貿易の規定やルールを決めているのはWTO(世界貿易機関)で中国も加入しているが、違反しても罰則はない。そもそも中国のような鉄面皮の国には通用しない規則なのである。インチキをやられたら、トランプ氏のようにやり返すしかないのである。
 「一帯一路」というのは橋や港の建設など公共事業を持ちかけて、カネが返せないなら橋や港の所有権を貰うというやり方だ。目下着工したうち何十もの工事が破綻しつつある。
(平成30年10月3日付静岡新聞『論壇』より転載)