「入管法改正の落とし穴」確立
―外国人労働者=移民予備軍への懸念―

.

会長・政治評論家 屋山太郎

 経済界はとてつもない人手不足に陥っている。そこで政府は外国人労働者を特定技能を持った「1号」と、熟練した「2号」に分ける入管法の改正に着手した。1号も2号もそれぞれ5年の滞在許可が与えられるが、この人達はあくまでも労働者であって「移民」ではないと、安倍首相は強弁している。しかし、10年住んだ日本で結婚もし、子供もいるような家族を元の出身国に強制送還できるのか。どの国の常識でも10年滞在、家族持ちなら、移民できるに決まっている。自民党の保守派には強い移民反対論があり、安倍首相もただの労働対策と言わざるを得ないのだろう。ヨーロッパもアメリカも移民問題で国が揺れ動くほどの体験をしている。日本はそういう動きに関わりたくないというなら、外国から労働者を招かないに限る。それでは日本経済が持たないから、臨時にせよ来てもらおうというのが、今の真情だ。そう決心した瞬間から移民問題に直面するのである。
 日本の人口は今後、長期の人口減少過程に入る。8年後の2026年に人口1億2,000万人を下回った後は急速な減少期に入り、2060年には8,673万7,000人になる。この傾向を目前にして日本の決断は2つに分かれる。8,673万人の国家で落ち着こうとするのか、あくまで1億2,000万人を維持したいと思うかである。
 ドイツは8,000万人規模の国家であり欧州にはそれ以下の国家がゴロゴロある。移民に熱心でメルケル首相は「多文化共生」策をとった。例えばトルコ人はトルコ地域に集まってトルコ文化を守れば移民たちは落ち着くだろうと考えたが、子供たちはドイツ語しか喋れなくなり、トルコ文化を守れなくなる。ドイツのトルコ人はドイツの労働力不足から集団で導入されたものである。目下、ドイツ文化を学ばせるべく、移民には600時間のドイツ語教育を受けさせている。
 日本の経済界が欲しがっている労働力は年間20万人だそうだが、これを出生率に置き換えると2.07になる。これが続けば現状規模の日本が続くはずだが、無理だろう。
 米国には黙っていても年間100万人の留学生がやってきて永住権や国籍を欲しがる人達が多いから、人口が減ることはない。
 日本とドイツは言語の壁が高くて、留学生も少ないし学生がそのまま居つく率は僅かだ。日本語を普及させようと、「日本語教師」の資格を公的に設けようという。どうやら政府は外国人の雇用によって、人手不足を乗り切る決心をしたようだが、こういう姑息なやり方では、“国家造り”を誤ってしまう。優良な移民だと認定したら、いつでも“日本人”になれるというルールを確立すべきだ。
 スイスの移民管理の特徴は、窃盗や薬物で有罪の判決が下ったらアウト。直ちに国外追放である。モラルというものは、こんな小さな罰則によって、確立されるものらしい。日本では不正をほったらかし過ぎる。
(平成30年11月14日付静岡新聞『論壇』より転載)