澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」-380-
香港と台湾の民主化は再びシンクロするか?

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2019年)6月、香港では「逃亡犯条例」改正を巡って、連日大規模なデモが繰り広げられている。
 昨2018年2月、香港人カップルが訪台した。その際、台湾で男子が女子を殺害し、香港へ戻った。香港と台湾の間には、「犯人引渡条約」がない。そこで、香港の法廷では、同男子を殺人犯として裁けなかった(司法管轄権の壁)。この事件を契機として、香港で「逃亡犯条例」の改正が立法会で審議された。
 もし、香港で「逃亡犯条例」が改正されれば、香港での経済犯罪を含む容疑者は、香港内で裁判を受けられず、中国へ移送されるだろう。
 すでに報道されている通り、改正に反対する市民が200万人(主催者側発表)を超えている。今回、「親中派」の香港ビジネスマンもデモに参加しているという。
 市民は「反送中」(香港での犯罪容疑者を中国へ送る事に反対)を掲げている。元来「送中」は通音(発音が同じ)で「送終」(最期を見届ける、死人を見送る)の意味である。
 実際、容疑者が香港から中国本土へ送られたら最後、政治色の強い不透明な裁判で裁かれる。
 2015年に起きた「銅羅湾書店事件」がその典型ではないか。中国公安が、銅羅湾書店関係者全員を中国大陸へ拉致・連行している(1人はタイから中国へ移送)。同書店が『習近平とその愛人たち』を出版・販売しようとしたためである。
 すでに、中国共産党は、このように国際公約の「一国二制度」を蔑ろにしている。香港の条例改正で、更に拍車がかかるだろう。
 さて、2014年3月、台湾で中台間での「サービス貿易協定」を巡り「ひまわり学生運動」が起きた。協定の批准を阻止するため、立法院に学生や市民が立て篭もった事件である。香港人は、この「ひまわり学生運動」を注視していた。
 同年8月末、中国全人代常務委員会が、次期行政長官候補は「指名委員会」の過半数の支持が必要であり、候補者を2~3人に限定すると決めた。
 これに対し、翌9月、一部の知識人や学生らが立ち上がった。それが「香港雨傘革命(運動)」である。
 「雨傘革命」がまだ進行中の同年11月下旬、台湾では統一地方選挙が行われた。当時の野党・民進党は「今日の香港は、明日の台湾」と主張し、選挙を戦った。
 そこで、民進党は同選挙で大勝している。それが、2016年1月の台湾総統選挙と立法委員で民進党の大勝利に繋がった。つまり、2014年、台湾と香港の間で、民主化運動が“シンクロ”したのである。
 現時点で、香港の「反送中」運動は、どのように収束するのか、予断を許さない。
 キャリー・ラム(林鄭月娥)行政長官は、立法会での審議を急いだ事を市民に謝罪した。だが、同長官は、条例改正の審議を無期限延期しただけで、改正案を撤回していない。
 習近平政権としては、威信(面子)にかけて、一刻も早く条例改正を通過させたいのではないか。そのためには、「反送中」運動を制圧しなければならない。
 最終的には、南部戦区の人民解放軍を香港へ送り込み、「反送中」運動を弾圧する可能性を否定できないだろう(一方、米議会は「香港人権・民主主義法案」を超党派で提出し、中国を牽制している)。
 今月末、G20大阪サミットが開催される。習近平主席も同サミットに出席予定である。さすがに、G20前、北京としても香港の「反送中」運動に対し強硬手段に出る事はできないだろう。だが、来月7月以降ならば、その確率は高まる。
 ところで、6月13日、台湾の与党・民進党は、党内予備選を行い、蔡英文総統を次期総統候補として正式に選出した。
 民進党幹部は、対抗馬の頼清徳前行政院長(首相)の予備選で勝たせないよう目論んだ。党内予備選を先延ばししたり、世論調査の方法を変えるなどして、“ゴールポスト”を移動させている。
 周知の如く、今年に入り、蔡英文総統は、無理矢理「同性婚」の立法を進めた。そこで、民進党の強力な支持母体である台湾基督長老会(福音派)は、怒り心頭で、次期総統選挙では、蔡総統へは投票しないだろう。
 目下、野党・国民党から誰が選出されても(鴻海の郭台銘会長か韓国瑜高雄市長が有力)、あるいは、無所属候補の柯文哲台北市長が出馬しても、蔡総統に勝利する公算は大きい。
 しかし、近い将来、仮に香港で「第2次天安門事件」が起これば、来年1月の総統選挙では、中国共産党に近い国民党や柯市長は敬遠され、結局、蔡総統が再選されるかもしれない。
 今年後半、2014年同様、再び香港と台湾での間で、民主化(=反中国共産党勢力の伸張)が“シンクロ”する可能性も排除できないのではないか。