「『徴用工』『慰安婦』『照射』『禁輸』・・・」
―行き過ぎた対日政策に警鐘を鳴らす民主主義的韓国人の存在―

.

会長・政治評論家 屋山太郎

 日韓関係はこのところ最悪の状況にある。韓国が腹を立てている原因は戦時中の所謂「徴用工」に日本が賠償金を払わないことだろう。腹立ちまぎれにレーダー照射事件を起こしたり、東北の魚や野菜の輸入を禁止したり、嫌がらせのやり放題だ。まともな国が隣国にこれだけ嫌がらせをすれば仲直りは難しい。こちら側から仕返しもしたくなる。韓国は、仕返しはないとの前提だったようだが、日本が韓国を友好国の扱いから外したのは当然だろう。
 日韓基本条約は1965年に結ばれた。この条約には日韓請求権並びに経済協力協定が付属している。これは韓国の再出発に当たって無償3億ドル、有償2億ドルを供出し、このほかに民間が3億ドルを貸すというものだ。5億ドルは65年当時韓国国家予算の55%に当たる。当時の日本の外貨準備は18億ドル程度だった。
 このお金は日本に徴用されたり動員された人に賠償するために調達された。しかし当時の朴正煕大統領は道路、鉄道、工場などのインフラを作ることこそ国家再生のカギだと認識した。朴大統領はこの資金の導入によって70年代、80年代の高度成長をもたらした。朴氏が民間出身の大統領だったら、「徴用工」や苦労した人達には別途払うと約束したあとで公共事業を始めただろう。
 いずれにしろ条約は国家と国家の約束事を文書にまとめたものである。加えて大統領までが約束したのだから、日韓条約が国内法の上位にあるのは当然だ。
 「徴用工」や慰安婦への補償はあえて日韓条約には入っていない。ところが「その分を返せ」という理由をつけてせびりだした。慰安婦問題を自虐的に持ち出して日本政府を攻撃したのは朝日新聞だ。ところが結局2014年、32年ぶりに「慰安婦の記事は事実に反するから取り消す」と発表した。
 「徴用工」ももし賃金不払いだったら、韓国政府が支払うべきものである。条約が国内法を上回るのは当然だ。日本国が韓国との条約を守っていないと日本人が認識したら「すぐ払え」という世論がまき起こるはずだ。2015年安倍首相は朴槿恵大統領との間で10億円を拠出することで合意し、これで金銭問題は「最終的かつ不可逆的な解決」とすることを確認した。 
 韓国では「徴用工」の件について18年、最高裁が日本に賠償を求める確定判決を出した。ところがそれまで判決を先送りしていたというので、前最高裁長官の梁承泰氏が職権乱用の罪で裁判にかけられている。
 梁氏は「すべて根拠がなく小説のフィクションのような話もある」「人を罰する材料を探し出すための捜査は法治主義を破壊し、違憲。それこそ権力の乱用だ」と述べ、検察は捜査を立件してみろとの態度だ。公判を通して韓国が「法治国家」か「検察共和国」かが決まるとも主張した。韓国にもわずかに良心的、民主主義的人物もいるらしい。
(令和元年7月10日付静岡新聞『論壇』より転載)