澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -398-
“国葬”のように国慶節を祝う習近平政権

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2019年)10月1日、中国では中華人民共和国建国70周年を迎える。そのため、習近平政権はその式典の準備に余念がない。
 当日、大規模な軍事パレードが行われる予定である。今年9月21日付『博訊』に掲載された開明の論考によれば、北京政府による軍事パレードには4つのポイントがあるという。
 第1に、パレードは中国共産党専制政権の嗜好を示す。
 第2に、パレードは習近平主席の権力を誇示する。
 第3に、パレードは中国人民に苦痛を与える。
 第4に、パレードは香港・台湾を震撼させ、欧米に攻撃力を見せつける。
 (なお、パレードの予行演習は3回行われる予定となっている。)
 ここでは、第3点目について述べたい。
 中国では、清朝時代、咸豊帝(第9代皇帝。在位は1850年~61年)が若くして崩御した時、国は100日間、喪に服した。その際、祝い事は禁止され、大声で歌う事も禁じられた。しかし、当時、商売までは禁止されなかったのである。
 ところが、今回、国の成立を祝うはずの国慶節では、9月5日から10月1日まで、ホテル・スーパー・コンビニに至るまで商売が禁じられている(なお、北京は10月1日~7日までを休日とした)。
 これでは、まるで清朝時代の“国葬”を執り行うのと同じではないか。否、中国共産党は商売も禁じたので、昔の“国葬”よりもひどいかもしれない。
 また、式典当日の“北京ブルー”(北京の青い空)演出のため、北京市や河北省の工場は、停止あるいは減産を余儀なくされている。北京の地下鉄は運行していない。北京市内では、マイカーも制限されている。このように、北京市民は不便を強いられたままである。
 他方、北京市内の中高生は、国慶節の予行演習に駆り出されている。そのため、秋から新学期が始まっていても、まだ一度も図書館へ行けないという。ちゃんと勉強ができない状況にある。
 彼らは演習に参加するため、まず、学校付近でセキュリティ・チェックを受ける。次に、天安門近くで再びセキュリティ・チェックを受けなければならない。彼らにとって、二重のセキュリティ・チェックは、この上なく面倒だろう。
 それに、本来、中高生が勉強もせず、長い間、式典のため動員されるのは、いかがなものか。中国共産党は、これで、将来、中国が米国を凌駕できると考えているのだろうか。だとしたら、それは「絵に描いた餅」に過ぎないのではないか。
 率直に言って、公安によるセキリュティ・チェックといい、中高生の動員といい、人的資源の無駄遣いである。
 特に、習近平政権が誕生して以来、中国は完全な“警察国家”になった。北京政府による国内での締め付けがきつくなればなるほど、国民の反発が大きくなる。
 そこで、秩序維持のため公安の人数を増やせば、当然、経済活動を行う人が減少する。少子高齢化の波が目前に迫る中国にとっては致命的な傾向ではないだろうか。
 一方、中国共産党が北京で庶民のビジネスを禁じれば、更に経済が減速する。そうでなくても、習近平政権の誕生以降、中国の景気は悪化している。それでも、中国共産党は式典を強行するのだろうか。
 実際、式典には、莫大な費用がかかる。2015年9月3日、北京で行われた「抗日戦争勝利70周年」では、215億元(約3225億円)もかかっているという(ちなみに、中国では、式典の費用は国家機密である)。
 昨2018年、米トランプ政権が大軍事パレードを計画していた。ところが、同年8月、トランプ大統領はパレードの中止を宣言している。
 その理由は、巨額の費用が必要とされたからである。パレードは、9200億米ドル(約100兆円)もかかる見込みだった。トランプ大統領の判断は賢明だったと思われる。
 だが、習近平政権は国家財政が厳しいのにもかかわらず、自らの“面子”や“自己満足”のため、庶民を犠牲にしてまで軍事パレードを行う。
 思えば、1949年10月、中国共産党は中華人民共和国建国以来、一度も国政選挙を実施していない。改めて同党による“支配の合法性”に疑問を抱かざるを得ない。