澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -401-
中国の国慶節と香港での警察とデモ隊の衝突

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2019年)10月1日、北京では建国70周年の国慶節が催された。
 国慶節に備え、9月5日から北京市内のホテル・スーパー・コンビニ等は閉店を余儀なくされた。また、北京市や同市を取り巻く河北省の会社や工場は稼働停止・減産を強いられた。北京市の地下鉄も止まり、車輌も規制された。
 それにもかかわらず、中国政府は国慶節当日「北京ブルー」(北京の青い空)に恵まれなかったのである。あたかも、習近平政権、ひいては中国共産党の未来を暗示しているかのようだった。
 北京政府は、軍事パレードで、東風41(大陸間弾道弾)や東風17(イージス・システムを無力化する極超音速兵器)など新兵器を世界に披露し、その軍事力をアピールした。
 しかし、いくら中国の軍事力が増強されても、(「第2文革」発動中で)経済が立ち行かない状態では、北朝鮮とあまり変わらないのではないか。近年、中国が「西朝鮮」と揶揄されるゆえんである。
 さて、今回の式典には、外国人の姿がまばらだった。パレードの際、たった12人の外国人しか招かれなかったのである。
 2009年、建国60周年の国慶節では、53ヵ国181人の外国人がパレードに招待され、参加している。その中の155人中、97人が留学生で、58人が主に外国の専門家や中国駐在企業の代表らだった。そのため、和気あいあいとした式典となっている。
 確かに、今度の式典には、海外メディアは参加していた。だが、(12人を除き)外国人はほとんど招待されなかったのである。
 実際、北京としては、国慶節を祝っている場合ではないだろう。目下、香港では、デモ隊が香港政府(特に、中国政府)に対し、普通選挙を含む「5大要求」を突き付けているからである。
 結局、香港では、安全上の理由から、今年、国慶節が行われなかった。それどころか、各地で中国政府を非難するデモが起きている。
 当日だけで、香港警察はデモ隊269人を拘束した。また、警察は1400発の催涙弾、900発のゴム弾、6発の実弾を発砲したという。
 周知の如く、10月1日午後4時過ぎ、(新界)荃湾公立何伝耀記念中学高校の18歳の生徒、曾志健が、警官に数十センチの至近距離から実弾で左胸を撃たれた。まもなく高校生は新界の葵青区にある瑪嘉烈病院(Princess Margaret Hospital)へ運ばれ、手術が行われた。
 実弾は、曾の心臓まで約3センチの所まで達していた。幸い、手術は成功し、命には別状がないという。
 何伝耀記念中学高校は、荃湾区でも1、2を争うトップ校である。翌2日、早速、この学校の在学生や卒業生を中心にデモが行われた。
 唐突にも、中国全国政治協商会議副主席の梁振英(前行政長官)が、同校校長に手紙を出し、「暴徒」曾志健の退学を求めた。だが、一部の教師らは絶対に曾を退学させないと公言している。
 なお、曾志健を含む7人(うち5人学生)が「暴動」・「放火」・「警官への暴行」等の罪で起訴された。
 実は、1997年、香港が中国に返還されてから今回初めて、警察が実弾を発砲した。警察側は自衛のためと強調しているが、“過剰防衛”の疑いが強い。これは、中国政府が香港警察に実弾使用を許可した証左ではないか。
 香港警察は一線を越え、警察とデモ隊の衝突は別のステージに突入したと考えられる。したがって、今後、香港では更なる混乱が予想されよう。
 習近平政権としては、遅くとも年内には香港のデモを収束させたいのではないか。さすがに、越年したくはないだろう。
 では、なぜ習政権は、深圳に駐屯する武装警察の香港投入に逡巡しているのか。
 まず、既報の通り、共産党内部で強硬派の「習近平派」が少数で、「江沢民派」(=「上海閥」)を中心にした「反習近平派」が香港に影響力を持つからだろう。
 次に、習政権は、国際世論、とりわけ米国の目を気にしているからではないか。トランプ政権は、北京が香港デモを武力鎮圧したら、以下の制裁を科すとしている。
 (1)米国にある中国共産党幹部の資産を凍結する。
 (2)弾圧に関わった党幹部の入国を拒否する。
 (3)中国人留学生を米国から帰国させる。
 (4)中国企業の米国での上場を廃止する。
 共産党幹部にとって、米国の(1)と(2)の制裁は相当厳しいと思われる。また、中国が技術発展・経済発展するには(3)と(4)が必要不可欠だろう。
 特に、「中国製造2025」で米国凌駕を目論む中国共産党としては、後者の2つは絶対避けたいのではないか。したがって、北京はワシントンを意識して、香港のデモ隊弾圧を躊躇しているに違いない。
 それでも、なお中国共産党は、香港で「第2次天安門事件」を起こすのだろうか。