澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -406-
中国共産党「4中全会」と香港情勢

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2019年)10月28日から31日まで、中国共産党第19期「4中全会」がようやく開催された。
 周知の如く、中国政治は、いつもブラックボックスの中で行われる。その限られた情報によれば、「4中全会」では、(1)後継者問題、(2)経済問題、(3)香港問題が重要テーマだったという。これらは、ほぼ事前の予想通りであった。
 (1)ポスト習近平-李克強の後継者には、陳敏爾-胡春華が有力である(ただ、李強という上海市トップの名前も挙がっている)。しかし、陳敏爾や胡春華では大物感に欠けよう。
 (2)の経済問題だが、その回復は、李克強首相ではなく、劉鶴副首相が任せられた。
 けれども、習近平政権の掲げる「混合所有制」という(国有企業が民間企業を呑み込む)「国進民退」政策では、中国経済が回復するはずがない。すでに、民間企業が約2百数十社も、中央企業(国有企業中、中央政府の管理監督を受ける企業)と成り下がったという。
 また、一説には、中国の債務は、すべて合わせると昨年720兆元(約1京1200兆円)に到達したとも言われる。中国当局が発表した昨年のGDPは90.3兆円(約1400億円。ただし、この数字には疑問符が付く)なので、中国にはGDPの約800%の債務が存在することになるだろう。
 (3)の香港問題は、元来、香港政府にその責任が負わされる。無論、その筆頭は、林鄭月娥(キャリー・ラム)長官だろう。
 11月4日、習近平主席は、上海でキャリー・ラム行政長官と会談した。そして、習主席は「秩序の回復が香港の最重要任務だ」と強調している。
 今度の「4中全会」では、「中國之治」(拙訳「中国の支配」あるいは「中国の治世」)が強調された。そのために、以下の「3つの原則」の堅持が必要とされる。
 第1に、中国共産党の指導の堅持する、第2に、人民をもって中心となす事を堅持する、第3に、全面的に法治国家を堅持する。
 第3の「法治国家」云々は噴飯モノである。1949年以降、今まで中国が「法治国家」であった試しはない。これは、香港の「民主化」デモ(「反送中」デモが選挙制度変更の「民主化要求」デモに転化)に厳しく対処するためではないか。
 その他、中国共産党は「ブロックチェーン」の技術で、仮想通貨を誕生させるつもりらしい。「米中貿易戦争」で、(対ドル)人民元安が進み、外貨準備高も減少している。そこで、北京政府は自らが仮想通貨を発行し、金融危機を乗り越えようとしているのだろう。
 さて、今年10月31日、香港高等法院が、「臨時禁制令」を公布した。同月5日から施行された「覆面禁止法」に続く第2弾である。
 この法律は、いかなる人もインターネット上のプラットフォーム上にいる事を禁止する。具体的には、SNS(LIHKG討論区やTelegram)を利用した言論によって、他の人を扇動したり、教唆したり、暴力で人を傷つけたり、財物を毀損したり威嚇するのを禁じた。
 11月2日、香港「反送中」デモ隊は、警察は再び衝突し、翌3日朝、200人以上が逮捕されている。
 実は、デモ隊の中で一部「勇武派」と呼ばれる過激な人達がいる(大多数は「和理非<平和、理性、非暴力>」を掲げる「和平派」)。そして、彼らの合言葉は「攬炒」(広東語で「死なば、もろとも」。香港社会まで道連れにする)である。
 その「勇武派」が、中国の新華社アジア太平洋総支社(香港支社)や中国銀行香港支店に火炎瓶や焼夷弾で攻撃した公算が大きい。
 確かに、デモは過激化している。だが、香港政府も「陳彦霖事件」のように、警察がデモ隊を自殺と見せかけ殺害しているという(「白色テロ」)。
 今後、北京政府は、香港の「1国2制度」をやめて、完全に「1国1制度」とするかもしれない。そして、香港に、インターネットの検閲制度、社会信用の点数制度(香港版「チャイナ・クレジット」)、社会監視制度を導入するつもりだろう。
 11月24日、香港では、身近な問題を扱う区議会選挙(小選挙区制)が行われる。香港全体では18選挙区に分かれている。
 前回2015年の選挙では、民選議員が431議席、その他(「当然議員」)は27議席で、458議席を争った。その選挙では「建制派」(「親中派」)が約70%以上を占めている。
 今回、「雨傘革命」の指導者、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)は次期区会議員に立候補する予定だった。けれども、香港政府は黄の立候補を受け付なかったのである。
 一方、米国は、可能ならば、香港区議会選挙前に、連邦議会で「香港人権・民主法案」(1992年の「香港政策法」の強化)を通過させる必要があるだろう。
 だが、ひょっとして、中国共産党は、この区議会選挙を中止したり、無期限延期したりするかもしれない。