澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -122-
中国艦艇、どさくさ紛れに尖閣接続水域へ

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年6月8日午後9時50分頃、ロシアの駆逐艦等3隻が、尖閣諸島(久場島と大正島の間)の接続水域(領海内12カイリ外縁の12カイリ内。一般的には公海と見なされる)に入った。そして、翌9日午前3時5分ごろ、北に向けて水域を離れている。
 過去に、ロシアの艦艇は我が国の接続水域に入ったことがある。今回は、東南アジアでの多国間演習の帰路だったと見られる。
 その後、まもなく6月9日午前0時50分頃、中国海軍フリゲート艦(江凱型Ⅰ級。3963トン。ステルス性を持つ)1隻が尖閣諸島の接続水域に“初めて”入った。
 海上自衛隊の護衛艦「せとぎり」が警戒監視する中、中国軍艦艇は午前3時10分頃、大正島近くから接続水域を離れている。ただし、同国艦艇の日本の領海(領土から12カイリ以内)への侵入はなかったという。
 日本外務省は同9日午前2時頃、斎木昭隆外務事務次官が程永華・駐日中国大使を外務省に呼び出した。そして、斎木次官は「重大な懸念」を表明し、すぐにフリゲート艦が尖閣諸島の接続水域から出るよう求めた。
 その直前、午前1時15分頃、石兼公博アジア大洋州局長も劉少賓・在日中国大使館次席公使に対し、電話で抗議を行った。
 早速、安倍政権は首相官邸の危機管理センターに「中国海軍艦艇の動向に関する情報連絡室」を置いている。
 9日当日、中国国防省は「尖閣諸島と周辺の島々は中国の固有の領土だ」と改めて主張した。その上で、同省は「自国が管轄する水域で軍艦が航行することは合法であり、他国が口を出す権利はない」と言明した。
 今回の中国とロシアによる一連の行動は、両国が“共謀”して尖閣諸島の接続水域へ浸入した可能性を排除できない。
 だが、中国海軍がロシアのマネをし、いわば“どさくさ紛れ”に中国艦艇を尖閣諸島の接続水域へ入った公算も大きい。
 したがって、中ロが“共謀”したように見えるが、必ずしも両国が一致して、我が国を牽制したのではないだろう。実際、日本政府関係者も「中国艦はロシア艦の動きを利用して入った可能性がある」と見ている。
 これは、中国共産党お得意の「サラミ作戦」ではないだろうか。
 まず、中国艦艇は、他国のEEZ(排他的経済水域)を通過し、次に、接続水域へ入る。そして、最後に領海を侵犯して行くつもりだろう。ゆっくりと、段階を踏んで、相手国領海へ浸入する方法である。
 ところで、周知のように、今年5月26日・27日、我が国で「伊勢志摩サミット」が開催された。採択された首脳宣言の中で、東シナ海・南シナ海問題に関して、G7は「法の支配3原則」の認識で一致した。
 その3原則とは、(1)国際法に基づいて主張を行うこと、(2)力や威圧を用いないこと、(3)紛争解決には平和的段追求すべきこと、である。
 だが、中国外務省がサミット終了後、議長国を務めた日本の駐中国大使館に抗議を行っている。実は、G7は決して中国を名指しで非難したわけではない。それにもかかわらず、北京は過敏に反応した。
 なぜ、習近平政権は、過剰反応したのか。その最大の原因は、やはり中国経済の低迷にあるだろう。
 一例を挙げれば、2014年11月から最近(2016年5月)に至るまで、19ヶ月連続で、前年同月比で輸入額が減少した。中国は(石油を含む)原材料や中間財を加工して最終財を輸出する。当然、輸入が減れば、輸出も減る。あるいは、海外からの最終財の輸入が減れば、国内での生産・消費も減るだろう。
 ちなみに、その19ヶ月間で、輸出が前年同月比でプラスになったのは、2015年2月と2016年3月の2回だけである。
 以上を考えると、(1)中国がすでに「世界の工場」でなくなりつつある、(2)中国の国内生産・消費が更に冷えつつある、という事ではないだろうか。
 いずれにせよ、中国国内では、習近平政権が行っている“恣意的”な「反腐敗運動」への反動が大きい。同様に、習政権による人民解放軍30万人削減への反発も強い。国内政治が不安定である。そのため、北京政府はどうしても海外に対し、強硬姿勢を取らざるを得ないと思われる。