澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -126-
日本周辺での中国軍の動きとASEAN

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 周知のように、近頃、中国軍が我が国周辺で不穏な動きを見せている。
 第1に、今年6月8日、ロシア艦隊(ウダロイ級駆逐艦等3隻)が尖閣諸島南沖から接続水域(領海12カイリ外縁の12カイリ)に入り、久場島と大正島の間を抜け、同水域から出た。
 その直後、翌9日午前0時50分頃、中国軍のジャンカイI級フリゲート艦1隻が久場島北東の接続水域に入った。同艦は3時10分頃、ようやく大正島北北西から接続水域を離れた。中国軍はロシア艦隊の真似をして、その接続水域に入っている。決して中ロが連携して行動を取ったわけではなかった。
 9日同日、自衛隊トップ、河野克俊統合幕僚長は、中国艦が日本の領海に侵入した場合「相応の対応はとっていく。一般論としては、海上保安庁で対応できない場合は海上警備行動をかけた上で、自衛隊が対応する仕組みになっている」と述べた。
 一方、河野幕僚長は、尖閣諸島周辺の接続水域に入ったロシア艦について「ロシアは尖閣諸島の領有は主張していない。接続水域の航行そのものは国際法上、問題ない」と語った。
 第2に、6月15日午後3時5分頃、今度は中国軍のドンディアオ級情報収集艦1隻が口永良部島の我が国領海(領土外縁12カイリ)内に、浸入した。そして、約1時間後の4時頃、北北西から離れた。
 中国艦艇は、沖縄周辺海域で行われた日米印「マラバール」(海上共同訓練)の3ヶ国艦隊を追跡していたのである。その際、海上自衛隊による中国艦艇への海上警備行動は発令されなかった。
 国際法上、各国は沿岸国の領海を“事前通告なし” で「無害通航」する権利を有する。ただし、「無害通航」は沿岸国の平和・秩序・安全を害さないことを条件としている。したがって、中国艦艇による日本領海への侵入は、「無害通航」には当たらないのではないか。
 第3に、16日午後、その中国軍情報収集艦が、さらに沖縄県の北大東島の沖合で接続水域に入り、約1時間航行した。
 以上、一連の中国軍の行動は、まさに既成事実を積み上げる“サラミ戦術”と考えられる。
 これらの中国軍の行動に対し、海上自衛隊は、何の対応も取らなかった。日本政府の意向を反映して、中国軍の“挑発”に乗らない選択をしたのである。
 しかし、中国に対して、時には「有言実行」が必要な場合もある。日本側が、何のアクションを取らなければ、中国軍の行動がさらにエスカレートする恐れがあるだろう。
 実は、6月9日、中国軍は、インドと中国が領有権を争うインド北東部(インドが実効支配しているアルナーチャル・プラデーシュ州)への侵入を試みている。
 中国兵約250人は、同州西部の東カメン地区に侵入し、約3時間滞在した。中国軍によるアルナーチャル・プラデーシュ州への侵入は、最近約3年間、確認されていなかったという。
 中国は、海上だけではなく地上でも軍事行動を起している。したがって、中国の軍事行動は、明らかに「マラバール」演習と関係しているのではないか(ちなみに、インド政府は、来年からは日本も正式に「マラバール」参加国となると発表した)。
 一方、今年6月14日、中国・ASEAN外相会合が中国雲南省玉渓で開催された。けれども、当日午後に予定されていた共同記者会見は取り消された。そして、王毅外相が一人で記者会見に臨む異例の事態となっている。
 その特別会合後、一部のASEAN(マレーシア・インドネシア)は“手違い”と称して自国メディアに対して中国を批判する旨の声明文を公開した。
 南シナ海問題に関しては、すべての国が国際法に従い、武力による拡大を即時に停止し、話し合いによる解決を図る。その上で、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所の判決に従うべきだとの内容だった。
 普通、公開されなかった声明文がこの様な形で出てくる事はほとんどない。そのため、地元メディアでは、一部のASEAN諸国が中国に反発して、意図的にリークしたのではないかと見ている。
 よく知られているように、中国は一部のASEAN諸国(ラオス・カンボジア等)を取り込んで、ASEANの切り崩しにかかっていた。だが、このようにASEANが一枚岩でまとまったのは、米国や日本にとって朗報だろう。
 中国軍の東シナ海・南シナ海での“膨張”は、経済問題(内需と外需が共に伸びない)で苦悶する、習近平政権の焦燥感の表れかもしれない。