澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -129-
来年の中国共産党19大に向けての“死闘”

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 2017年秋、5年に1度の中国共産党第19回全国代表大会(以下、19大)が開催される。
 そこで、中央委員205人と171人の候補委員が選出(現在の18大の場合)される。さらに、中央政治局委員25人が選ばれ、その中から最高権力機関である政治局常務委員7人(チャイナ・セブン)が決定される仕組みである。
 中央政治局内には、「七上八下」と言う定年退職ルールが存在する。19大の時点で、67歳までは政治局委員・政治的常務委員として残留可能である。だが、原則、68歳以上は中央政治局に残れない。
 したがって、習近平国家主席と李克強首相は、政治局常務委員として残留予定だが、他の5人は常務委員を辞めなければならない。
 王岐山(中央紀律委員会主任)は、目下、習主席の「反腐敗運動」を精力的に推進している。王(「太子党」)も、来秋、69歳となる。したがって、定年退職が目前に迫っている。
 しかし、王岐山に関しては、政治局常務委員に残留するのではないかと囁かれている。もし、来秋、王が引退したら、「反腐敗運動」は下火になる恐れがあるだろう。
 けれども、習近平主席が勝手にルールを変えて、王岐山を常務委員に残したら、他の派閥(「共青団」や「上海閥」)から猛反発が起こるだろう。
 そこで、習近平主席としては、王を留任させられない場合、側近中の側近、栗戦書(中央弁公室主任)を政治局常務委員にするのではないかと噂されている。ただし、はたして栗が王に取って代われるか人物かどうかわからない。
 胡錦濤前主席は、当時、令計劃(中央弁公室主任)を政治局常務委員にしようとしたと言われる。
 ところが、2012年3月、令計劃の息子、令谷が「黒いフェラーリ事件」を起こす。令谷は、女子大生(?)2人を乗せていたが、その事故で令谷は即死している。2人の女子大生(?)のうち1人が後に死亡した。
 令計劃はこの事件をもみ消そうとしため、出世の道が閉ざされたばかりか、失脚までしている。
 胡錦濤前主席同様、現在、習近平主席は中央弁公室主任の栗戦書を、何としても政治局常務委員にしたいだろう。中央弁公室は、あらゆる情報が集まる場所である。共産党の要の職務と言っても過言ではない。逆に言えば、他派閥は栗戦書に急所を握られる恐れがあるので、栗を常務委員にさせないように画策するだろう。
 さて、習主席は、現在、国内の経済状況に不満を抱いている。そして、習近平が組織した「中央財経領導小組」(習近平組長、李克強副組長、他は劉雲山・張高麗が中心。その他、劉遠東、汪洋、馬凱、王滬寧、栗戦書ら。ちなみに、その弁公室主任は劉鶴)で、習主席自ら主導して経済政策を立案している。
 これまでの慣例では、李克強首相が国務院(内閣)を率いて経済政策を実行する。過去、江沢民主席―朱鎔基首相、胡錦濤主席―温家宝首相というコンビで経済政策を立案・実行してきた。だが、周知の如く、習近平主席―李克強首相の関係はぎくしゃくし、上手くいっていない。
 先月5月9日付『人民日報』では、習近平主席側近の「権威人士」(政府中枢要人。劉鶴と言われる)による中国経済を診断した記事が掲載された。その「権威人士」の分析によれば、今のままでは、今後、「U字型」回復どころか、数年は「L字型」状況が続くと言う。これは、習主席周辺による露骨なまでの李克強首相批判であった。
 翌6月13日付『人民日報』には、侯立虹署名の「最高指導者はどのように名実ともに成りうるか」という一文が掲載された。
 現在、1人の最高責任者が政治・経済・外交・改革の深化等のすべてを仕切っている。だが、1人の人間がすべての事を掌握するには限界があると、暗に習近平批判を展開した。これは、李克強批判に対する反論だろう。
 つまり、「太子党」の習近平主席と「共青団」の李克強首相が『人民日報』という党の中心的メディアを使って、お互いを非難し合っている。これでは、政権運営がスムーズに行くはずもない。
 実は、習近平主席は19大で、李克強首相を更迭し、王岐山を首相に据えるアイデアを持つという。これが叶わない場合には、現在、上海市長の韓正を首相に就任させることも考えられる。
 今年夏の北戴河会議で、おおよその人事が固まるとも言われるが、予断は禁物かもしれない。