澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -131-
AIIBの危うい本質

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年2016年1月、中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)が正式に発足した。AIIBは、約1000億米ドルを基金として設定している。初代総裁には中国の金立群が就任した。
 さて、中国はADB(アジア開発銀行)に対する世界最大の借金国である。2014年9月の数字では、ADBは貸付総額の約26%を中国へ貸し出している。本来ならば、北京は、この借金を返済してからAIIBを設立するのがスジだったのではないか。
 中国政府は、AIIB発足以前から融資・決済に人民元を加えるよう各国へ呼びかけた。
 依然、人民元は、変動相場制を採っていない。米ドルにペッグされている通貨である。また、北京政府に人民元は管理されている。さらに、中国の銀行のATMから人民元の偽札が出て来ることは、つとに知られている。そんな人民元が国際通貨となること自体、面妖ではないか。
 周知のように、AIIBの実態は「無格付け」の国際銀行である。ADBが銀行だとすれば、AIIBはノンバンクに相当する。前者は、貸付条件が厳しいが、後者はその条件が緩やかである。
 米国(世界第1位のGDP)と日本(世界第3位のGDP)がAIIBへ参加しない以上、資金調達が難しい。そのため、中国高官らは、昨年来、ずっと日本にAIIB参加を要請してきた。
 AIIBは1件あたり、投票権の75%以上の賛成(各国は拠出金に応じて投票権の割合が決定)を得られないと、案件は承認されないという決まりがある。
 AIIBでは、中国(世界第2位のGDP)の出資比率(29.8%)が1番大きいので、1国で26%以上の投票権限を持つ。そのため、事実上、中国がすべての案件に対する拒否権を持つ。中国が承認しない案件は、全部廃案となる。
 このルールを見ればわかるように、AIIBの本質は、中国が他国から調達した資金を自国の都合の良いプロジェクトに利用する仕組みである。
 現時点で、AIIBに57ヶ国が参加しているが、近い将来、あと30ヶ国・地域が参加する予定だという。ただし、いくら参加国が多くても、日米が参加しない以上、相変わらず、「無格付け」の状態が継続するだろう。
 実は、今年4月、英『フィナンシャル・タイムズ』紙は、以下のように伝えていた。
 AIIBはノウハウが不足しているので、他機関との協調融資を行う中央アジアでの道路建設を建設する。
 第1に、AIIBは、パキスタンでアジア開発銀行(ADB)と共同で高速道路の延長工事を実施。
 第2に、AIIBは、タジキスタンでADBと欧州復興開発銀行(EBRD)と共同で道路建設を実施。
 第3に、AIIBは、カザフスタンで世界銀行(World Bank)とEBRDと共同で環状道路の建設を実施。
 第4に、世界銀行とAIIBは、2016年中に総額で12億ドル程度の協調融資を実施。
 今年 6月25日、AIIBの第1回年次総会が北京で開かれ、最初の融資案件4件が決まった。
 AIIBが初の案件は、バングラデシュの送電事業やタジキスタンの道路整備事業など4件である。投資総額は全部で約500億円にのぼる。ただ、4つの事業が行われる国は、すべて中国が「一帯一路」に位置付けた国々だった。
 中国は、相変わらず内需が停滞しているので、AIIBを通じて、外需を伸長させようと必死である。
 同日夜から26日かけて、報じられたニュースでは、鳩山由紀夫元総理が、AIIBの「国際諮問委員会」の委員に就任するという。同委員会は、金立群・総裁らに第三者の立場で助言する機関で、10人程度で構成される。
 これは、中国共産党による一種の日米の“切り崩し”工作かもしれない。ただし、最近、他界した弟の邦夫氏と比べ、兄の由紀夫氏は、政治的センスに疑問符が付く。また、すでに鳩山元総理は日本国内ではほとんど影響力はない。鳩山由紀夫氏は、日中の架け橋になりたいと願っているかもしれないが、現実には難しいだろう。
 他方、AIIBの副総裁の一人として、韓国の洪起沢(ホン・ギテク)副総裁が最高リスク管理者(CRO)として就任した。ところが、最近、洪起沢副総裁は、急に、休職することになった。その期間は6月27日から半年間だという。
 韓国はAIIBで出資比率は5番目(中国、インド、ロシア、ドイツの次)であり、分担金は37億ドル(5年分納)に達する。だが、韓国は、そのまま、副総裁のポストを失う可能性が出てきた。韓国はAIIBに出資はしたもの、ほとんどメリットがない上、プレゼンスを失うおそれもある。
 このように、AIIBの未来は暗いと言わざるを得ない。