澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -135-
今年の北戴河会議の3大テーマ

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2016年)7月下旬(ないしは8月上旬)から、毎年恒例の北戴河会議開催が予定されている。この会議は、現役の党・政府幹部らと引退した党・政府幹部らが一同に会し、重要事項を話し合う。今回は、来年19大(中国共産党第19回大会)の人事が中心になる見込みである。
 同会議では、具体的に3つのテーマが焦点となるだろう。
 第1に、習近平主席の権力を更に集中させるかどうかである。
 政治局委員25人で重大事案を討議するには、一定の時間がかかる。その幹部の中に、地方のトップとして赴任した者がいるからである。そこで、習近平主席に権力を集中させた方が、即断即決でき、効率が良いとも考えられる。
 しかし、そうすると、習主席は故・毛沢東主席と同じ“独裁者”の道を歩むに違いない。周知のように、近年、中国軍は、東シナ海・南シナ海への海洋進出が顕著である。“強硬派”の主席一人に権力が更に集中すれば、同地域での軍事的紛争は不可避となるかもしれない。
 第2に、「七上八下」のルール改正についてである。
 節目の党大会の時点で、67歳ならば、政治局に昇進・残留できる。だが、68歳以上の場合、政治局へ昇進できないし、同局から引退しなければならない。
 もし、このルールが、「70歳定年」のように改正されれば、習近平主席は盟友の王岐山を政治局常務委員に残す事ができる。そして、習主席は、王岐山と共に「反腐敗運動」を継続させるか、あるいは、李克強首相を更迭し、王岐山を首相に就任させるだろう。
 その際、李克強首相は、全国人民代表大会委員長という“閑職”に追いやられる公算が大きい。
 第3に、中国のトップである総書記兼国家主席の選出方法(「隔世後継者選出」)を変更するか否かである。
 かつて、最高実力者、鄧小平は、江沢民の次のトップを胡錦濤と決めた。江沢民らは、胡錦濤の次のトップに習近平を選んだ。
 つまり、政権を担当している世代の人間が、次の世代トップを決めるのではなく、政権を担当している世代が、次の次の世代トップを決めるのである。
 おそらく、習近平主席は、このトップ選出方法を変更し、自らの主導で後継者を指名したいのではないか。
 その際、問題となるのは、「共青団」の胡春華(現、広東省トップ)と「上海閥」の賈慶林(前政治協商会議主席)に近い孫政才(現、重慶市トップ)の処遇である。今まで、この2人が、第6世代のホープと見なされてきた。
 現在、政治局委員である胡春華と孫政才が、19大(2017年)で政治局常務委員入りする。そして、次の20大(2022年)で、2人が中国トップを競うというのが“規定路線”と考えられる。
 はたして、習近平主席が、この“規定路線”を守るかどうかである。もし、習主席が、“規定路線”に従えば、党内での摩擦は少ないだろう。
 だが、ひょっとすると、習主席は、別の人事を考えているかもしれない。胡春華と孫政才がどちらも「太子党」出身でないからである。そうなると、今後、党内人事は大荒れとなるだろう。
 以上の3大テーマは、習近平主席が、これまで行われてきた党内民主主義を打破し、すべての権力を自らに集中させたいという思惑が透けて見える。したがって、今年の北戴河会議は、「習近平派」と「反習近平派」との熾烈なバトルとなる事は避けられないだろう。
 ところで、昨2015年の北戴河会議の最中(8月3日~16日)、大事件が発生したことは記憶に新しい。
 8月12日深夜、天津港に近い浜海新区で、化学薬品や危険物を扱う倉庫が大爆発を起こした。未だ、原因不明である。
 ジャーナリストの鳴霞によれば、以下が真実ではないかという。
 北戴河会議閉会後、習近平主席らは、列車で天津へ移動し、そこで会議の内容を発表する予定だった。ところが、「反習近平派」が天津で習主席を暗殺しようと企てていた。習主席はその“習暗殺計画”を事前に察知し、別のルートで北京へ戻った。
 「反習近平派」は、その計画の証拠隠滅を図るため、あえて天津港近くの瑞海国際物流有限公司倉庫を爆破した。地面に直径100メートル(60メートル説もある)の穴が開いた。爆発の大きさを物語る。
 天津市民が爆発に巻き込まれ、多数の死傷者が出た。消火活動にあたった消防隊員らも、たくさん犠牲になっている。一説には、数千人以上の死者が出たという。
 けれども、昨秋、爆発現場周辺は、その原因究明も為されないまま、芝生が敷かれ、エコ公園へと生まれ変わっている。