中国人の民度は4000年前と同じ
―漢文は道徳向上や知識の普及に役立たなかった―

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会長・政治評論家 屋山太郎

中国は南シナ海の岩礁を埋め立て軍事基地を建設し、東シナ海にも公船を伴う漁船200隻を進出させている。この“侵略”はいま、思い立ったのではなく1992年2月に発表した「領海法」に書いてある。「台湾およびそこに含まれる釣魚島(尖閣諸島の中国名称)、東沙群島、西沙群島、中沙群島、南沙群島、さらにその他一切の中華人民共和国に属する島嶼を包括する」。
中国の独善的主張について、日本人は今更ながら驚いているが、中国人の国際観念からみると驚くに当たらない。2012年11月14日、習近平氏が党総書記に指名された時の講和は「現在、われわれは過去のいかなる時期よりも、中華民族の偉大なる復興の道に近づいている」とぶち上げたのである。さらに15年11月28日、共産党中央外事工作会議では「21年までに“中華民族の偉大なる復興、すなわち“中国の夢”を実現する」と期限を切って“実行”を約束している。
中国は清朝時代の国際秩序への回復を狙っている。その国際秩序観念とは「華夷秩序」である。それは中華を中心として同心円的に東西南北に広がり、周縁に位置する人種や民族ほど文明度が低いとみなす古来の価値観念だ。周辺国を中華の礼式に服させ、見返りに王位を与えて、その王に領土と領民の統治を委ねる。この“冊封体制”こそが、中国の国際秩序の観念だ。韓国は500年間、明の属国だったし、沖縄は500年前まで冊封国家だった。中国要人の中から「沖縄も中国領だ」といった主張が出て来るのも、昔、失ったものを取り返したい欲望を表明しているに過ぎない。
日本はこういう国の隣に住みながら、中国人の“本質”について全く無知すぎた。漢詩、論語などを学んだ政治家は特に中国人を買い被っている。立派な四書五経を残しているのだから、そのうち立派な中国人が復活してくると思っている。教科書問題が勃発したころ、宮沢喜一官房長官は一言「その報道は間違いだ」と否定すれば済んだものを謝った。挙句に教科書を作成する時には「近隣諸国に配慮する」という近隣条項まで作成した。「丁重に処理しておけば相手も柔軟になる」と言っていたが、相手は図に乗ってきただけだった。
日本人全体もそうだが、特に教養を積んだ世代が始末に悪い。旧制高校で学んだ人達ほど漢詩や漢籍を学ぶ。三木武夫元首相の座右の銘は「信なくば立たず」というものだった。このセリフを日本の商人は「商人道の基本」に置いて商売をしてきた。今でもそうだが、中国人には「無縁の世界」の言葉なのだそうだ。
漢文というのは書き言葉であって話し言葉ではない。しかも漢字は何千語もあるため識字率は低かった。漢字を読める人は限られていたからこそ、皇帝は時代が変わっても漢字使いの「科挙」を必要とした。漢文は道徳向上や知識の普及に全く役立たなかった。中国人の民度は4000年前も全く同じだったのだ。
(平成28年8月24日付静岡新聞『論壇』より転載)