前原氏、蓮舫氏に問う
―民共共闘で“統一戦線方式”を受け入れるのか?―

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会長・政治評論家 屋山太郎

民進党の代表選挙は前原誠司氏と蓮舫氏の一騎打ちになった。両者の“政権構想”に、共産党と将来、どのような関係を持つのかが明言されていない。戦後、社会党が結党した時、共産党は社会党に「統一戦線」の申し入れ書を持ってきた。しかし党内右派の西尾末廣氏(社会党書記長、片山内閣官房長官のちに民社党委員長)が断固、共闘反対を貫いた。戦後、世界が東、西に分裂した頃、コミンテルンは各国共産党に指令して“統一戦線方式”で政権をとれと指令した。この結果、ポーランド、ハンガリー、ルーマニアなど東欧諸国で共産政権がまとまった。「統一戦線方式は共産党が握る棍棒だ」と言われたものだ。
「憲法9条のみで平和が保てる」という9条神話を広めたのは社会党である。共産党は自衛が必要だが、現行の自衛隊は非武装を掲げた憲法違反。従って日米安保も解消すべしと唱えてきた。社会党と実態は同じだが、社会党の二番煎じと言われるのだけは避けてきた。
ところが94年に社会党の村山富市氏が自民党・さきがけに担がれて、政権のトップになってしまった。社会党はやむなく、自衛隊を認め、安保条約を認めた。党名も社民党と変えた。共産党は直ちに綱領を変えて、旧社会党が守ってきた護憲、非武装路線を引き継いでしまう。少数の共産党が多数の社会党を居抜きで相続してしまったのだ。
これに先立って共産党はしばしば、社会党との共闘路線を成功させてきた。
戦後、左翼政界で活躍した荒畑塞村氏は共産党を「ホトトギス政党」と名付けた。ホトトギスはウグイスの巣に卵を生んで、その幼鳥ホトトギスは、まだ孵化していないウグイスの卵を巣から落として巣を乗っ取る。これを「寄生的な繁殖習性」と言うそうだが、コミンテルンに所属した各国共産党にはその習性がある。
ヨーロッパ一の勢力を誇ったイタリア共産党に対して、保守と革新が「共産党を閣内に入れない」一点で合意し、5党連立内閣を作った。左翼の民社党、社会党も力を合わせて共産党を閣外に締め出した。親分であったソ連崩壊後はさっさと党名を「左翼民主党」と改め、党運営の原理であった「民主集中制」まで破棄した。民主集中制は独裁政党の象徴のようなものだ。各国共産党は冷戦終焉までソ連のための「反戦」、共産主義実現のための「反戦」で党をまとめた。
このため“暴力革命”にも首を突っ込み、山村工作隊を設立した。公安調査庁が共産党を「監視団体」と特定するのはこのためだが、共産党が謝ったり、失敗を取り消したりすることはない。党史からひっそりと消して口を拭う。公安も「暴力革命を止めたと見做す証拠がない」と監視対象から外す気配がない。
本家本元のソ連が潰れると何も言わずに中国に従い、中国の評判が悪いとひっそりと黙る。他の政党は言論の自由があるが故に、都合の悪いことを封ずることができない。封じれば、中国のようにならざるを得ない「統一戦線」「国民連合政府」をどう扱うのか、前原誠司氏、蓮舫氏に厳しく問いたい。
(平成28年8月31日付静岡新聞『論壇』より転載)