自民党総裁任期延長問題
―「任期」より国民の支持が優先されるべき―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 自民党総裁の任期延長問題が浮上している。二階俊博幹事長は党内に検討する委員会を作って、なるべく早く結論を出すと述べている。高村正彦副総裁や各派閥の領袖はあらかた任期延長に賛成のようだが、次を狙う石破茂氏や一言居士の小泉進次郎氏、野田聖子氏らが「任期はまだ残っているのに、何故そんなに早く決めるのか」と呟いている。
 党総裁の規約に短い任期がついているのは日本ぐらいのものだ。ドイツのメルケル首相は10年近く首相をやっているし、イギリスも首相任期はなく、マーガレット・サッチャー氏は79年から11年間首相を務め、イギリス経済を立て直した。小選挙区制度は96年から導入されたが、任期と中選挙区制度が密接に関係していたことを知らないと、日本の与党の任期が何故短期なのかが分からない。
 1区から3~5人を選ぶ中選挙区制度は大正以来70年間続いたが、戦後は派閥が数を競う醜いものに変質した。党首を党員(当初は議員だけ)が選ぶため、親分は1人でも子分を増やしたい。他人の選挙区に無理やり子分を割り込ませるとか、カネを出して他の派閥から引き抜くなどの“不正”が横行した。親分の器量は政策立案能力など関係がなくなり、金集めの手腕こそが不可欠とされた。集金能力で傑出し、子分を140人も集めたのが、田中角栄氏である。田中氏が総裁になる直前、任期2年を4年まで延長と党則が改正された。「2年では集金しきれないからだ」と言われたものだ。
 当時、親分は5人ほどいたが、交代で首相の座に就いて、使ったカネを取り返していたものだ。中選挙区制度の末期には金権政治が異臭を放つほどになっていた。それを一掃するためには (1)政権交代が期待できる小選挙区制に切り換える (2)政党に公約助成金を投入し、金集めを厳しく制限する―ことが不可欠とされた。
 親分の金集めの能力が不要となったのである。金で集まっているわけではない証拠に自民党には無派閥議員が100人近くいる。金を貰って派閥に寄り集まる人もいるが、昔日の派閥の結束とは全く違う。
 金集めに必要がなくなったのだから、派閥の長が代り番こに首相に就いて、元を取るための金集めをする必要がない。信望ある政治家が担がれる風潮が生まれた。政治信条を披歴して公正に票を集める党が定着しつつある。
 安倍晋三氏は党員の多数決で首相に就いたが、金権の要素はない。純粋に“安倍思想”に賛同したものに担がれた。安倍氏は衆参4回の国政選挙でいずれも勝ち、内閣の支持率は常に40%台を保っている。国民は安倍政治で良いと意思表示していると見るべきだ。
 この支持と無関係に党則に3年掛ける2とあるから6年で辞めろというのは本末転倒ではないか。国民の支持があるうちは首相を続行できる仕組みにしてこそ、政党だ。自分は“安倍思想”とは違う。誤っていると判断した党員は主旨を表明して立候補をするのは自由だ。任期がきたから辞めさせるは間違いだ。
(平成28年9月14日付静岡新聞『論壇』より転載)