民進党の無知と“感情論”が更に露呈
―憲法改正に真摯に向き合えない党幹部の稚拙さ―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 民進党の憲法改正を巡る発言を聞いていると、この党は議会制民主主義とか国会の意味を理解していないのではないかと思うことがある。議会制民主主義というのは国会に政党が集まって国政について議論することで成り立つ。国政の最重要課題は憲法である。
 民進党の前身民主党時代の岡田克也代表は「憲法について安倍政権の時代には議論しない」と言っていた。安倍晋三氏は世論の圧倒的支持を得て政権を獲得し、当初の支持率は60%を超えており、国民の代表を名乗ってもおかしくない。その第一党の党首に対して「議論しない」というのは国会無視もいいところである。多勢に無勢では不利になるという思惑なら、自分が不利な時は議論は受け付けないということか。続いて民進党の幹事長になった野田佳彦氏は、「自民党が出している憲法案を撤回するのが議論の前提だ」と言う。この草案というのは自民党が下野していた時代に自民党案としてまとめたものである。
 そもそも憲法のような国の基本法をまとめる時には、出席する政党がそれぞれに案を出し合い、全体の構想、個別の項目のすべてに亘って議論する必要がある。安倍首相は自民党案が通るとは全く思っておらず、「叩き台として使ってくれ」と言っている。
 岡田、野田両氏の言い分は「憲法は審議したくない」という“感情論”にしか聞こえない。しかし常識で考えても70年間、一度も憲法を改正しないできた国は存在しない。国政上も外交上も国の姿勢を改めなければならない事情が出てくるのは当然だ。そういう時に責任を持つのが国会であり、政党であって、自分が多数を取ったときに改正しようと思っているとすれば、天下の“無責任野郎”である。
 民進党の挙動はかつて国鉄(現JR)に存在した国労(社会党系労働組合)の動きとそっくりだ。当時国鉄には国労(23万人)動労(8万人)鉄労(5万人)など労働組合が5つ、6つ存在した。国鉄は毎年2兆円の赤字を垂れ流し、この解決は国家の急務とされた。中曽根康弘氏は国民的人望のあった土光敏夫・経団連会長を担ぎ出して全国一体の国鉄を7つのJRに分割・民営化することを決断した。その際、動労、鉄労は変革の流れに乗り、新体制移行に協力したが、国労は体を張って反対した。当時38万人のJRは、今7社20万人になったが、補助金はゼロ、加えて7社で7000億円の税金を国に納めている。要するに分割・民営化のおかげで国が2兆7000億円得することになったのだ。改革は成功したのだが、この改革に当たって国労は徹底抗戦、おかげで組合員は新経営体制への採用に当たって排除された。この結果、国労という組合は、今や往年の影をとどめない。
 国労は社会党の原動力だったが、国労の衰退とともに社会党(現社民党)も衰退した。変わらなければならない時に代われない政党は、国労の轍を踏むだろう。政界は時世の流れを受けて、公明、維新などの政党が憲法改正に動き出している。
(平成28年10月5日付静岡新聞『論壇』より転載)