澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -169-
習近平主席は一体何を目指しているのか?

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2016年)10月24日から27日、中国・北京では第18期中央委員会第6回全体会議(6中全会)が行われ、習近平主席が「核心」という称号を得た。ひょっとすると、来秋の中国共産党第19回全国代表大会(19大)では、習主席の考える布陣となるかもしれない。
 近いうちに、「第6世代」のホープ、胡春華(現、広東省党委員会書記<広東省トップ>、「共青団」)が上海市党委員会書記(上海市トップ)へ異動する公算が大きい。胡春華が次期政治局常務委員の1人となる可能性が出てきた。
 その空いた広東省党委員会書記のポストには、習主席の浙江省時代の部下、陳敏尔(現、貴州省党委員会書記。浙江省常務副省長等を歴任)が充てられると噂される。
 他方、その北京市党委員会書記(北京市トップ)には、やはり習主席の浙江省時代の部下、夏宝龍(現、浙江省党委員会書記。元浙江省長)が昇格する予定だという。夏宝龍も、政治局常務委員となるかもしれない。
 さて、北朝鮮の金正恩党委員長については、何の目的で核開発・ミサイル発射実験を強行しているのか議論がかまびすしい。
 だが、中国の習近平主席に関しては、「なぜ自己に権力を集中させるのか」について、論評があまりなされていない。習主席の場合、自分の夢の実現のためなのか、それとも、歴史に名を残すためなのだろうか。
 習主席は、2012年11月の中国共産党第18回全国代表大会(18大)以来、一貫して「毛沢東型」の専制政治を目指してきた。そして、今では、主席が本気で“皇帝”になろうとしているように見える。
 周知の如く、習近平政権(「太子党」の習主席と王岐山)は「虎も蝿も叩く」として「反腐敗運動」を展開している。しかし、同運動が(「上海閥」と「共青団」を打倒するための)体の良い党内闘争だという事が内外に知れ渡った。
 だが、一般庶民にとって、習政権の虎退治(特に「新四人組」―周永康・薄熙来・令計劃・徐才厚―)は自分達と全く関係ない。はっきり言って、どうでもよい事である。庶民としては、身近な蝿(腐敗官僚)こそ、習主席に退治して欲しい真のターゲットなのである。
 腐敗官僚はしばしば勝手に都市住民・農民の家屋・土地を処分し、それが騒動の原因となっている。しかし、その「蝿叩き」はほとんど進まず、庶民は相変わらず町や村の腐敗官僚に虐げられている。
 最近(11月11日)、福建省竜岩市新羅区東肖鎮洋潭村の村民9人(男性5人、女性4人)が、家屋の取り壊し移転の補償を求め、竜岩市政府へ陳情に行った。
 しかし、それが受け入れられず、同日15時30分頃、その9人が市政府の門の前で、農薬を飲み集団服毒自殺したのである(なぜか中国系メディアは、彼らが病院へ運ばれ、その後、皆、意識が回復し、命に別状ないと報道している)。
 ところで、本来ならば、経済は李克強首相が担当する。だが、習近平主席は、李首相の経済運営(公共事業により需要を喚起する「ケインズ型」デマンドサイド経済)が気に入らないとして、「中央財経領導小組」を作り、自らがそのトップとなった。
 現在、習主席は経済政策(減税や規制緩和を重視するサプライサイド経済)を主導している。けれども、一向に景気回復が見られない。このままでは、中国経済は奈落の底へ落ちて行く恐れがあるだろう。
 一方、習近平政権は、元々小さい自由な言論空間を更に狭めている。今年2月、党支配下にあるマスコミ(人民日報・CCTV・新華社)に対して、習近平主席は自らに忠誠を誓わせた。
 また、インターネットポリスを動員して、ネット民の言論を封殺している。そして、穏健な人権派弁護士らを「国家転覆」の容疑で、投獄した(例:2015年の「7・9弾圧」)。
 実は、習近平主席は、「一国二制度」下にある香港の民主化さえも阻止しようとしている。最近、香港立法会へ介入し始めた。2人の「泛民主派」議員は、宣誓の仕方が悪いとして、議員資格を奪っている。
 同様に、今年11月11日、孫文生誕150周年の式典で、習主席は、蔡英文政権(「一つの中国」を認めない)に対して「台湾独立」は許さないと牽制した。