「安倍・トランプの初会談」
―新たな日米関係構築に期待―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 ドナルド・トランプ米次期大統領が当選した10日目に日本の安倍晋三首相の面会を受け、1時間30分会談したのは、正に破天荒の事柄である。トランプ氏と言えば、日本人は悪口、雑言の言い放題、これで大統領が務まるのかといった先入観だった。「アラブを入れない」「メキシコとの国境に壁を作る」などとは乱暴な言い方だが、米国人が潜在的に持っている感情だろう。ただその本音を押えて、敢えて言わないのが政治家だと思っていたが、その本音をぶつける政治家、いや実業家が出てきたのには驚いた。
 この人物については悪口、雑言をでかい声で言う人、以外には殆ど知識がない。その人物が最初に見せた行動が、日本の安倍首相と会うことだった。この一事から何を連想するか。
 安倍氏が第2次安倍内閣の首相に就任した時、真っ先にやりたかったのは日米関係の修復である。しかしオバマ氏は中国との融和を優先して日本との会談は翌13年まで延ばし、会談時間は僅か1時間半だった。米側が、習近平主席を迎えての会談は8時間。これだけ見ても時代の受け取り方を完全に取り違えている。核兵器の廃絶をぶってノーベル平和賞を貰ったが、最後は国連で「核兵器先制不使用宣言」でさえできなかった。中国の軍事力増強の様を直視すれば、いま日本に目を向けるのは真っ当な感覚ではない。日米同盟は日本が有事の時に助かるが、米国有事の際にも日本の存在が不可欠な状況にある。
 会談の内容は完全オフレコになっているが、殆ど安倍氏が一方的に喋ったというから想像はつく。安倍氏のトランプ人物評は「信頼築けると確信」(日経新聞)、「信頼できる指導者」(読売新聞)、「彼は話をよく聴く」「選挙中と別」(共に産経新聞)というに尽きる。「人の話をよく聴く」との評は米国の新聞でも見かけたが、実業家として成功した所以でもあるのだろう。
 「日本の防衛費は自分で払え」とか「TPPは入らない」といったセリフは取引の前の商売人の口上と似ている。防衛費の明細を知ったら、米国の出費は実は自国の兵隊の人件費だけと知るだろう。
 TPPについて安倍首相は「米国では立法できないから、日本で条約を批准しても無駄だ」という民進党の主張に「米国に批准を迫る意味もある」とねばり抜いた。いま世界が締結にとりかかっている条約はTPPのほかにTTIP(米、EU)とRCEP(中国、韓国など)の3つ。このうち日・米が入っているのはTPPだけで、これは単なる商品の関税貿易とは違う。知的財産権やサイバー防止など防衛に関する精緻な約束事がある。
 日米が目下、知恵をしぼっているのが、いかに中国に知的財産や防衛秘密を盗まれないかである。この分野さえ防御すれば、中国は人工衛星は打ち上げたものの、紙おむつは作れないという半端な工業国にとどまる。トランプ氏がその気になれば共和党は上下院とも多数派だから、すぐまとまるはずだ。
(平成28年11月23日付静岡新聞『論壇』より転載)