澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -184-
王洪光中将の勇ましい台湾奪取発言

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2016年)12月17日、2017年を迎える年次総会で、王洪光中将(元「南京軍区」副司令)が、次のような話をしたと『環球時報』が伝えている(ちなみに、王は、父親は王建青少将、岳父が高厚良という「太子党」)。
 興味深い内容なので、概略を紹介したい。
 第1に、現在、台湾では「台湾独立」が島内の“主流民意”で、今後、島内は徐々に「台湾独立」傾向となり、平和的「中台統一」の可能性が殆どなくなった。
 第2に、蔡英文は陳水扁元総統のような“投機分子”とは違って、理性的「台湾独立派」である。
 蔡英文は、口では台湾海峡両岸の「現状維持」が必要だと言いながらも、12月2日、蔡はトランプ次期大統領へ電話をした。
 王洪光によれば、蔡は実際の行動によって「現状維持」の最低ラインを突破しているという。
 第3に、台湾島内の一部の人達は、日本人と連帯している。「台湾独立」の次は何か。それは台湾の「沖縄化」である。
 第4に、国民党は段々と勢力が衰退しつつあるので、国共による「中台統一」は期待できない。
 中国大陸には、7億人のネットユーザーがいるが、『環球時報』の世論調査によれば、その中の93%が武力を用いても台湾を「解放」すべきだと回答している。
 第5に、台湾はいくら頑張っても、もはや中国による台湾との「武力統一」を阻止することはできない。中国側は既に台湾に対して絶対的主導権を持つ。
 結局、王洪光の考えでは、2020年前後に台湾海峡で戦争が起き、中国が一挙に台湾を奪取する公算が大きいという。
 さて、まず、『環球時報』の世論調査がどれほど正確なのか不明である。本当に7億人の中国人ネットユーザー中、93%が武力で台湾を「解放」すべしと回答したとすれば、中国共産党による人民への“洗脳”が奏功しているのかもしれない。
 問題は、なぜ王洪光が(平和的にせよ武力的にせよ)「中台統一」を“既定路線”と考えているかである。
 大清帝国は、確かに1683年から1895年まで200年以上、台湾を統治した。
 しかし、その前後はどうだったのか。大清帝国が台湾を統治する前、オランダと鄭一族が台湾を支配していた。また、日清戦争の結果、大清帝国は澎湖島を含む台湾(以下、同じ)を“永久”に我が国に割譲したのである。したがって、台湾は中国の“固有の領土”とは言えない。
 次に、1943年12月、米英中で「カイロ宣言」が公表された。けれども、「カイロ宣言」はプレス用の草案のみ存在し、ルーズベルト米大統領、チャーチル英首相、蔣介石中華民国総統の間で署名されたはずの正式文書は、世界中、どこにも存在しない。そのため、「カイロ宣言」の有効性が疑われている。
 仮に「カイロ宣言」の正式文書が存在したとしよう。その中で、日本は台湾・朝鮮・満州等を中華民国へ返還せよと書かれている。ならば、我が国は台湾を中華民国へ返還すべきであり、(当時、存在していなかった)中華人民共和国へ返還する必要はない。
 もし、中華民国が完全に滅亡して、中華人民共和国が中華民国の領土を全て承継しているのならば話は別である。だが、依然、この地球上に中華民国が存在している以上、日本は台湾を中華民国へ返還することになる。
 そして、第二次大戦で、我が国が連合国に敗れ、1951年の「サンフランシスコ平和条約」(翌年発効)で台湾を放棄した。ただ、その帰属先はどこかを謳っていない。従って、国際法上、台湾の帰属は“未定”という考え方が有力である。その場合、台湾の未来は台湾住民が決定することになるだろう。
 他方、GHQ(連合国軍総司令部)のトップ、ダグラス・マッカーサーは、「第1号指令」でGHQの代わりに蔣介石総統に台湾を接収・統治するように命じた。あくまでも、蔣介石はGHQの代理で台湾を支配するようになっただけであり、中華民国が必ずしもGHQから台湾の主権を付与されたわけではない。
 以上のように、台湾は決して中国固有の領土ではない。また、国際法的にも、中国が台湾を併合する根拠は希薄である。
 それにもかかわらず、過去に自分の領土だった領土(台湾)を武力統一するという“帝国主義”的考え方は、世界に受け入れられるはずはないだろう。
(文中敬称略)