澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -185-
世界戦略を切り替えるトランプ米新政権

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2017年)1月20日、米国ではトランプ新大統領が就任する。今後、新大統領がどのような安全保障政策を採るのか占ってみたい。
 現在、新政権の布陣の顔ぶれが段々と固まりつつある。言うまでもなく、外交・軍事に関して最も重要なのは、国務長官と国防長官の人事(共に上院の承認が必要)だろう。
 トランプ次期大統領は国務長官にレックス・ティラーソン(エクソンモービルCEO。今まで政治に無関係だった)氏を指名した。また、国防長官には、ジェームズ・マティス元中央軍司令官を指名している。
 実は、ティラーソン氏は、ロシアへの投資に関して懐疑的だった。同国の司法制度(「法による支配」)が整っていないからである。
 けれども、ティラーソン氏は個人的に、プーチン大統領と太いパイプを持つという。従って、トランプ次期大統領によるこの人事は、ロシアに対し関係改善を求める強いメッセージとなっただろう。
 他方、トランプ次期大統領は、昨年の大統領選挙当選以来、プーチン大統領に対し、好意的なメッセージを送り続けてきた。
 プーチン大統領も、オバマ政権の対ロ強硬姿勢からの変化を心待ちにしている節がある。その好例として、オバマ大統領は米大統領選でのロシアのサイバー攻撃(トランプを有利にしたと言われる)に対し、ロシア外交官・情報部員35人を追放すると決めた。
 慣例として、ロシア側も米国外交官・情報部員を追放するだろう。しかし、プーチン大統領はそれを留保している。
 以上の経緯から、今後、トランプ新政権が「親ロ」政策を打ち出すことはほぼ間違いない。
 ただ、ティラーソン新国務長官が、対中国に関してどのような姿勢を見せるのか、今のところ不明である。
 一方、アフガンやイラク等で戦った元軍人、マティス氏に関しては、断片的に、彼の不適切な言動が伝えられている。だが、マティス氏がどのような思想・哲学を持つのか定かではない。「親中」なのか「反中」なのかは不詳である。
 周知のように、トランプ次期大統領は、当選後、対中強硬発言を繰り返している。また、トランプ次期大統領は、台湾の蔡英文台湾総統と電話で話をしたり、「一つの中国」政策放棄を公言したりしている。
 仮にティラーソン氏とマティス氏がトランプ次期大統領と完全に同一歩調を取るならば、今後、米国は中国に厳しい態度で臨む公算が大きい。
 更に、トランプ次期大統領は、米通商代表部(USTR)のトップにロバート・ライトハイザー氏を起用するという。
 ライトハイザー氏は、共和党レーガン政権時代、USTR次席代表を務めた経験を持つ。また、ライトハイザー氏は、対中強硬派として知られる人物である。
 これらの一連の人事を見る限り、トランプ次期政権は「親ロ・反中」に傾斜する可能性が高い。
 ところで、1972年、米国はニクソン訪中で「米中接近」を図った。米国世界戦略の大転換点だった。
 ニクソン政権は、対ソ戦略の一環として、米中関係の深化を望んだ。他方、毛沢東は対ソ戦略上として、米国との関係を緊密化しておきたかったに違いない。米中の思惑が一致したのである。
 当時、世界中の誰もが、まさか「反共」の米国が中国と手を結び、一緒にソ連に立ち向かうとは思いもよらなかっただろう。
 その後、米国は、技術的にも軍事的にも、中国を支援した。それから、既に半世紀近い歳月が流れている。その間、1991年、ソ連邦が崩壊(自壊)し、一時、米国の“一人勝ち”(米1極状態)の様相を呈した。
 しかし、21世紀に入り、中国が徐々に経済的・軍事的に力をつけてくる。そして、近年では「養光韜晦」(能ある鷹は爪を隠す)戦略から、露骨な「覇権主義」(「中華民族の偉大なる復興」)へと、大きく舵を切った。今や、中国が米国に取って代わって、世界のリーダーに君臨しようとしている。
 それに対し、トランプ次期大統領は危機感を抱き、再び「強い米国」を目指している。
 おそらく、トランプ次期大統領は、45年ぶりに米国の「親中・反ソ(反ロ)」から「親ロ・反中」へ戦略的大転換点を図るのではないか。1972年の「米中接近」の真逆である。
 今度は、米国はロシアと手を結んで対中国網を敷き、習近平政権の“野望”を挫くつもりではないだろうか。