澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -193-
中国のGDP再考

.

政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2017年)1月20日、中国国家統計局は、昨年の同国のGDPを発表した。
 2016年、中国のGDPは、第1四半期が6.7%、第2四半期が6.7%、第3四半期が6.7%(3四半期連続同一)、第4四半期が6.8%、1年を通じては6.7%だったという。
 グローバル化した現代において、GDPが3四半期同じ数字という事は、常識的にあり得ない。世界経済の動向(例えば、原油価格が高騰・騰落など)、或いは、世界を揺るがす大事件の発生等で、GDPは大きく変化するからである。 
 そして、国家統計局は、驚くべきことに、昨年、中国のGDPはインドのそれ(6.6%)を上回り、世界1の経済成長を遂げたともいう。しかし、俄かには信じがたい。
 第1に、それほど中国が好景気ならば、なぜ人民元が対米ドルで安くなっているのだろうか。同国の経済状況が悪いからこそ、為替が人民元安に振れているのではないのか。
 第2に、欧米・日本等の外資が中国から徐々に撤退している。そればかりか、民族資本家の李嘉誠(香港)・曹徳旺(中国)らも大陸を去り、欧米へ投資を開始した。彼らはビジネスマンとして、中国経済の先行きに不安を感じているからだろう。
 これらだけ見ても、「中国GDPの世界1」には大きな疑問符が付く(その他に関しては、拙書『2017年から始まる!「砂上の中華帝国」大崩壊』<電波社>参照のこと)。
 以前から中国の発表するGDPについては、世界中から疑惑の目が向けられていた。結局、共産党による“大本営発表”に過ぎないのではないかと思われる(同党は「大躍進」期、数字を巨大に水増し、それをあたかも事実だとして公表した過去がある)。
 折しも、今年1月17日、陳求発・遼寧省長は同省人民代表大会で、2011年から14年まで同省の財政統計に捏造(20%の水増し。14年単年では23%の水増し)があった事を公に認めたのである(因みに、かつて遼寧省トップだった李克強首相が、米国高官に対し、非公式に中国の経済数字は「人工的」だと暴露した)。
 また、遼寧省では、昨16年1~9月にはGDPがマイナス成長だったという。別に、必ずしも遼寧省だけが特別なわけではない。当然、各省市も遼寧省に準じるのは間違いないだろう。
 もう一つ、国家統計局は、見逃せない“事実”を発表した。昨2016年も消費がGDPの64.6%を占めたという(因みに、15年は66.4%)。この数字が本当ならば、これも異常である。
 中国では、2014年まで投資が中心であり、消費がGDPに占める割合はせいぜい50%前後だった(一時は30%台。14年は51.0%)。
 だが、突然、翌15年からGDP全体の3分の2近くを占め始めたのである。不思議ではないか。
 逆に言えば、2015年と16年の両年、投資(政府と民間)がいかに少なかったかを物語る。これこそが習近平主席主導の「サプライサイド経済学」である。いくら景気が落ち込んでも、決して財政出動はしない(おそらく、中央政府の財政赤字がひどくて、景気対策を打ちたくも、打てないのだろう)。
 では、中国に、米国のような消費型社会が到来したのか。それもあり得ない。
 よく知られているように、中国では社会保障が不十分である。(党・政府機関や国有企業以外の)民間企業で働く場合、一般的に失業保険はない。医療保険も充実しているとは言いがたい(医療費が極めて高いので、うっかり病気やケガができない)。
 定年退職後、たとえ年金があっても決して十分とは言えない。また、多くの親は子供の教育に熱心だが、その教育費は非常に高い(貧困家庭では小中高の進学ですら困難である)。
 従って、大部分の中国人はイザと言う時の為に貯蓄をする。だから、容易にカネを消費に回せない。
 ところで、それに関連して、今年1月初旬、我が国の某局は、「巨龍中国『14億人の消費革命~爆発的拡大!ネット通販~』」と題する番組を放映した。
 内容を掻い摘んで言えば、中産階級(アッパーミドル)以上の約5億人がネットでの商品購入に熱心で、中国全体の消費が伸びている。だから、これからも同国の経済発展は続く。そのような印象を与える番組構成だった。一面では事実かもしれない。
 だが、残りの約9億人の下層の人々は、中産階級同様、ネットで好きなモノを自由に購入できるのだろうか。無論、否である。
 番組で、その点には全く言及せず、中産階級以上だけの消費行動を取り上げただけだった。従って、「14億の消費革命」というタイトルは明らかに視聴者をミスリードしている。本来ならば、「5億の消費革命」とすべきだったのではないか。
 同局は、一体、どんな意図で同番組を制作したのだろうか。