澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -196-
今秋の「19大」人事と中国経済の見通し

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2017年)秋、中国では中国共産党第19回全国代表大会(「19大」)が開催される。そこで今後5年間の重要人事が決定する。そして、来年3月の全国人民代表大会(全人代)で承認を受け、正式に政権発足となる。
 注目されるのは、政治局のメンバー(25人)とその常務委員だろう。
 江沢民時代(「14大」「15大」)以降、政治局常務委員は7人構成だった。だが、胡錦濤時代(「16大」「17大」)、江沢民の意向を受け、政治局常務委員は9人となった。ところが、習近平時代(「18大」)になり、再び以前の7人制へと戻された。
 現時点で、今秋の人事を予測するのは難しい。取り敢えず、伝えられている事柄をまとめておこう。
 政治局常務委員の人数だが、(1)0人、(2)5人、(3)7人、(4)9人が考えられる。
 まず、(1)の0人とは政治局常務委員制(形式的には民主的な制度)を廃止して、「核心」である習近平主席が大統領(中国語では総統)になる。独裁的な中国共産党は、益々独裁色が強くなるだろう。
 次に、(2)の5人ならば、政治局常務委員の数が減り、たとえ、その中に「共青団」の李克強が残ったとしても、あとは全て習近平人脈(主に「太子党」プラス「習近平閥」)で固められるだろう。
 恐らく習近平主席の側近中の側近、栗戦書は政治局常務委員になる公算が大きい。あとは、学者の王滬寧あたりが有力ではないか。
 王岐山(今秋69歳)の処遇については、微妙である。習近平主席としては、常務委員として残したいだろうが、習近平、李克強を除く5人は「七上八下」(67歳までは任期を継続できるが、68歳以上は引退)のルールに従えば、王岐山も常務委員として残れないはずである。
 そして、(3)の7人は“現状維持”である。しかし、ここでも習人脈の人事が主流となり、「共青団」系の汪洋や胡春華(「革命第6世代」の本命と目されている)が入局できるかどうかが注目される。
 恐らく江沢民の「上海閥」系は誰も入局できないかもしれない。だとすれば、胡春華の最大のライバル、孫政才(賈慶林と親しい)の常務委員への昇格は厳しいだろう。
 最後に、(4)の9人だが、常務委員の人数が増える事は考えづらい。しかし、たとえ9人へと増員されても、習近平人脈で固められる可能性が高い。
 ところで、我々が常々強調しているように、中国経済は眼を覆いたくなるほど低迷している。
 従って、今秋「19大」で誰が政治局常務委員となり、経済担当の首相となろうとも、小手先の経済・金融政策では中国の景気を回復できないだろう。その理由は、以下の通りである。
 普通、景気が悪い時、政府は財政出動して、景気対策を打つ。ところが、財政赤字がひどい中央政府は、もうこれ以上、財政出動できない(2008年の「リーマンショック」の際、胡錦濤政権が巨額の財政出動をしたため、財政赤字が膨らんだのである)。
 ならば、構造改革(国有企業中の「ゾンビ企業」改革)を行って、この苦境を乗り越えたいと考えるだろう。だが、多くの国有企業は党幹部や人民解放軍と関係が深い(既得権益の巣窟)ので、簡単には潰せない。
 同時に、国有企業を潰せば、たちまち失業者が街に溢れ、益々社会不安が増大する。 
 これらは独裁制のツケだろう。民主主義国家ならば、選挙による平和的政権交代で、別の党が新政府を担う。だが、中国は未だ一党独裁なので、平和的政権交代は起こらない。流血を伴う「易姓革命」(王朝名を換える革命)しか選択肢がないのである。
 周知のように、今年1月17日、現遼寧省長が同省の2011年~14年のGDPを20%も水増ししていた事実を公に認めた。そして、同省長は、昨16年1月~9月期の同省GDPがマイナス2.2%だった事も暴露した。
 これは、一体、何を意味するのか。常識的に考えれば、遼寧省だけがGDPの水増しを行っているではない。(党幹部が出世するため)他の殆どの省市も同じ事をやっていると推察できよう。つまり、各省市がGDPの大幅な水増しをして、中央政府に報告しているのである。当然、中央政府もそれを知りつつ、内外に向けて、水増しされたGDPを平気で発表する。
 そうすると、不思議な事が起こる。中国は昨年のGDPを6.7%と発表した。インドのそれが6.6%なので、“景気の悪い”中国が、世界1の経済成長を達成したことになる。
 何故か世界中の多くのメディアは、この中国の奇怪なGDPに関して殆どスルーし、相変わらず北京政府の“大本営”発表のGDPを垂れ流ししている。面妖である。