安倍・トランプ会談、友情生れるか
―日米の信頼関係構築が国際社会の安定を招く―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 安倍首相は2月10日のトランプ大統領との会談のあと、フロリダ州バームビーチにゴルフの招待を受けた。昭恵夫人を伴い、トランプ氏の娘イバンカさんと一緒にプレーする予定だ。ここで安倍・トランプ両氏の友情が育まれれば、傷だらけの国際関係を和らげるのではないか。
 かつてレーガン大統領と中曽根康弘首相とのロン・ヤス関係は冷戦下の日米関係をがっちり固めた。これを土台に中曽根氏は当時のサッチャー英首相とも友好関係を保った。当時も日米貿易関係のトラブルがあったが、補佐官がレーガン氏に「日本のここを改めて貰うよう言ってくれ」と頼むとレーガン氏は「オレはヤスの困るようなことは言いたくない」と言って断ったという。それをあとから聞いた中曽根氏は「何かしてお返ししたい」と思ったそうだ。
 ブッシュ大統領と小泉純一郎首相との間にも厚い友情があった。9.11事件の時は小泉氏が駆けつけて激励したものだ。
 しかし今度のトランプ氏と友情を築くのは困難中の困難ではないか。まず理解しなければならないのは相手が政治畑を歩んできた人物ではないということだ。150字足らずのツイートで、一国、或いは世界を動かす大統領令を出す。安保ただ乗り論をぶち上げたかと思えば自動車貿易の赤字を持ち出す。言われた日本側は憮然としたり、震えあがったりだが、既に片付いている問題もある。鬼面人を驚かす類いだが、問題のポイントを正確に突いていることは確かだ。
 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に反対し、NAFTA(北米自由貿易協定)をやり直すという。この人には多国間で何かを共同でやるなどという趣味はないようだ。ある国に対する貿易赤字が多いとなると、条約などぶち壊して構造からやり直せということになるらしい。一見、向こう見ずな大統領令が連発されたが、乱暴ではあるが、これもスピード感ある政治手法ではなかろうか。
 8年間に亘るオバマ大統領が一体、何を生んだというのだろう。就任早々にプラハに行って核軍縮を訴えた。これが宗教家なら黙って聞き流すが、世界を動かせる国の大統領が言うことだろうかと、耳を疑った。
 トランプ氏は世界が騒々しいのは中国と中東地域だと見当をつけた。台湾の蔡英文総統からの電話を受けて中国に揺さぶりをかけたかと思えば、中東からの入国ストップの大統領令も発した。双方とも軍事問題だと理解しているから国防長官にマティス氏を任命した。マティス氏は「マッド・ドッグ(狂犬)」の異名を持つ。トランプ氏が将軍中の将軍と敬意を払う人物で、いち早く日韓両国に遣わした。この一手で日本および東南アジアの不安感は一挙に和らいだ。
 中東問題にはロシアの介入が不可欠だと思うが、こういう発言はこれまでタブーだった。だが、ロシア抜きで中東の安定、移民問題が片付くとは思えない。安倍首相にはトランプ氏の腹を探り、知恵を出して貰いたい。
(平成29年2月8日付静岡新聞『論壇』より転載)