澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -198-
米中「一つの中国」の裏での台湾実務外交

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

今年(2017年)2月9日、安倍総理大臣は訪米のため、政府専用機で米国へ向かった。安倍首相がその飛行機の中にいた時、トランプ米大統領が習近平中国国家主席に電話して、「一つの中国」政策を遵守すると言ったという。

このトランプ大統領の言動に関しては、(1)ティラーソン国務長官のアドバイスで、トランプ大統領が「現実主義」へ舵を切った、(2)トランプ政権が日米だけに偏らず、米中関係を改善するためバランスを取った、(3) トランプ大統領は習近平政権に対し投降した、などの様々な見解がある。

ここでは、米中間の「一つの中国」政策について詳述しない(言うまでもなく、「一つの中国」政策は、あくまでもフィクションに過ぎない。いつか「一つの中国」「一つの台湾」という現実がフィクションを凌駕する時代がやって来るだろう)。

もし本当にトランプ大統領によって「一つの中国」政策が破棄されたら、急速に米中・中台関係が悪化したに違いない。そして、台湾海峡危機が訪れても不思議はなかった。

その点、ワシントンが、台湾海峡両岸の平和を維持するため「一つの中国」政策堅持を表明したのは、賢明だったのかもしれない。

世界がトランプ大統領の「一つの中国」政策受け容ればかりに眼を奪われている最中、台湾はしたたかな実務外交を展開していた。この点について、我が国では、ほとんど報道されていないので紹介したい。

今週2月12日、台湾民進党の立法委員、管碧玲ら女性議員3人は、3日間の滞在予定で訪印した。

昨16年4月、管碧玲は台湾インド国会議員友好協会会長に就任している。同年12月、インド台湾議員友好フォーラム(India-Taiwan Parliamentary Friendship Forum=ITPAF)が成立した。

それを受けて、今回、管碧玲を団長とする立法委員が訪印し、議員外交を展開したのである。

周知のように、昨年1月、台湾W選挙(総統選と立法委員選)で民進党が圧勝した。そして、同年5月、蔡英文民進党主席が総統に就任している。

就任と同時に、蔡総統は、国民党・馬英九政権の「中国一辺倒」政策をやめて、「新南向」政策を打ち出した。

台湾は中国への輸出依存度がきわめて高く、経済的「中台統一」へ向かって突き進んでいた(馬英九政権末期、中国経済の低迷で、台湾は多大な影響を受け、一時、季節調整前の実質GDPが3四半期連続でマイナスに転じている)。

蔡総統の「新南向」政策は、経済的に東南アジア、オセアニア(オーストラリアとニュージーランド)、それにインドとの関係を深化させようとする試みである。

周知の如く、インドは未だ中国と領土問題を抱えている。同時に、中国が(インドと対立している)パキンスタンを様々な形で支援してきた。その上、中国共産党は、インドに対し、「真珠の首飾り」戦略でインドの海外進出を封じ込めようとしている。そのため、中印の関係は決して良好とは言えない。

そこで、ニューデリーは北京よりも台北を重視しているのである。インドのマスコミでさえ、蔡政権の「新南向」政策に興味を抱いているという。

インドと台湾は経済的結びつきも強くなってきた。2014年、印台貿易総額は700億米ドルに達し、2000年と比べ5倍も増大している。今後は、更に貿易額も増える見込みである。

また、台湾企業が、今後、インドのクチャラー州へ2000万米ドルを投資するという。他方、台湾側は、インド100都市の「スマートシティ」創設に協力する予定である。

実は、インドと台湾は、文化面でも交流がある。昨16年、インド人留学生1143人が台湾で学んでいる。また、近くインドは台湾で映画を製作する計画がある。そこで、週明け2月20日、台湾では県市代表が集まり、インド映画製作に協力する会議を開くという。

印台は互いの対中戦略の一環として、経済や安全保障の面から一層緊密な関係を構築するだろう。

これは、安倍外交の「対中包囲網」の「セキュリティ・ダイヤモンド」構想(米国ハワイ・インド・日本・オーストラリアを結ぶ)と軌を一にする。我が国の安倍政権・台湾の蔡英文政権・インドのモディ政権は“準同盟関係”に入ったと言えるかもしれない。