澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -204-
香港警察4万人デモと中国共産党の党内闘争

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2017年)2月22日夜、約4万人の香港警察官とその家族が抗議デモを行った。香港警察隊員佐級協会(Junior Police Officers Association)、香港警務督察協会(Hong Kong Police Inspectors' Association)等、4つの警察協会が特別会員大会を実施している。
 香港「雨傘革命」(2014年9月〜12月)の際、公民党(「泛民主派」)の曽健超が、香港警察に暴力を振るわれた。5日前の2月17日、香港の裁判所は、7人の警察官に禁固2年の実刑判決を下した。今度の4万人デモは、有罪判決を受けた警官を擁護するためだった。
 このデモを扇動したのが「共青団中央」だと言われる。今年7月1日、香港では香港返還20周年記念イベントが行われる。
 そこで「共青団中央」は、香港で習近平主席(「太子党」)を攻撃し、党内闘争の劣勢を挽回しようとしている可能性を排除できない。
 周知のように、今秋には、中国共産党第19回全国代表大会(19大)が行われる。今度の人事では、第6世代のホープ、胡春華(「共青団」)ですら、政治局常務委員入りが危ぶまれている。そのため、「共青団」は香港で“巻き返し”を図っているのかもしれない。
 最近、中国国内でも似たようなデモがあった。昨16年11月28日、北京市公安局に所属する4000人以上の現役警察官が、天安門広場に近い北京市公安局ビル前に集まっている。
 彼らは、北京市公安局長の王小洪(習近平主席の腹心)に対し不満を抱き、抗議デモを決行した。この辞職デモの直接的契機となったのは、同年5月7日、北京で起きた「雷洋事件」だという。
 デモは、仲間の警官が雷洋殺人容疑で起訴される寸前だった。そこで、江沢民系の「上海閥」に組織された現役警察官らが北京公安局(及びその上位の中国共産党最高幹部=習近平主席)に圧力をかけるため、デモを行った公算が大きい。
 閑話休題。昨年8月30日、香港紙『成報』が、突然、張徳江(「上海閥」系の全人代委員長)と梁振英(香港行政長官)らを、香港を乱す者として批判を始めた。
 習近平主席(「太子党」)が「上海閥」を叩くために『成報』を使って、張徳江らへの攻撃を開始したのである。
 翌9月12日『成報』は、梁振英、張暁明(中央人民政府駐香港特別行政区連絡弁公室=中連弁)、それに姜在忠(「親中派」である『大公報』と『文匯報』の社長)らを「乱港(香港を混乱させた)四人組」と断罪した。そして、第4番目の人物(=張徳江)はもうすぐ現れるだろうと書いている。
 翌13日、『成報』は、裏社会(=香港マフィア)が梁振英を支持する主要な勢力となっていると糾弾した。
 しかし、よく考えてみれば、おかしな話である。中国共産党自らが(香港の中国共産党地下党員と噂され、当時、全く人気のなかった)梁振英を香港行政長官に仕立て上げた。
 選挙前、胡錦濤主席が劉延東を深圳へ派遣し、「選挙委員会」のメンバーらに梁振英への投票を依頼して、ようやく梁行政長官が誕生したのである。
 それを今更、中国共産党は梁振英が裏社会と通じているからと言って攻撃するのは、いかがなものか。
 実は、「上海閥」の劉雲山(政治局常務委員)が、『人民日報』等の官製メディアでは、未だ隠然たる影響力を持っている。劉は党中央委員会宣伝部長を10年間(2002年11月~2012年11月)も務めたからである。
 そこで、昨16年9月12日、人民日報社配下の『環球時報』は、社論で『成報』を批判した。その社論は、『成報』の谷卓恒(董事局主席)が、彼らに対し個人的な恨みを抱いていると非難した。
 同年10月20日、今度は、国営新華社が、『成報』の谷卓恒を犯罪者だと決めつけた。同年5月、谷は、一般人から不法にカネを集めた(約1.3億元=約20.8億円)、所謂「出資法違反」の罪で、広東省深圳市羅湖区人民検察院から逮捕状が出ていた。だが、谷は逮捕直前、逃亡していると指弾した。
 それに対し、すぐさま谷は、新華社社論の目的は、谷の“人格抹殺”を狙ったものだと反論した。
 更に、今年2月1日、『成報』は、谷卓恒の文章を巻頭に掲載している。
 その中で、谷は我々の口を塞ごうとする輩が、自分に対し罠を仕掛けている、と主張した。また、谷は、谷自身や谷の家族、『成報』の社員達に身の安全に脅威を与えている、と訴えた。
 「一国二制度」下の香港が、いつの間にか、すっかり中国共産党の党内闘争の“戦場”となってしまった感がある。